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私のやんごとなき王子様 土屋編

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 午後3時を回った頃――

 ふいに入口の方が騒がしくなった。
 そちらの方へとみやれば、入り口からはみ出す程の集団が目に飛び込んで来た。

「あ、あれってもしかして……」
「ああ、取材か」

 独り言のつもりだったんだけど、近くにいた土屋君が誰にともなく零した声が耳にとどいた。
 星越学園の演劇祭は毎年注目されてるからこうして合宿中に取材がくるんだけど、今年はその人数が例年以上で驚いた。

「やっぱり風名君と亜里沙様がダブル主役だからかな?」
「ふっ、下らないね。マスメディアに踊らされるなんて愚の骨頂だよ」

 興味も無さそうに一笑し、また筆を走らせることに集中する土屋君。その姿勢は一貫していて、少しだけカッコ良くすら見える。

「あれ? あの子は……」

 取材の人の一人が土屋君に目を止めると、ズカズカと室内へと入ってきた。

「君は土屋奏君だね? あの芸術家一家の」
「おお! 彼が」
「まぁ、この色彩! 見事ね〜!」

 なんて言いながら、土屋君の返事を待つまでもなく次々に取材の人達は彼に近付き、シャッターをバシバシと切っていく。

「それが何か?」

 土屋君はいつもにもまして冷たい声で答えた。

「今、描いているそれは今回の作品のメインともいえる白鳥達の湖かな?」

 そう言ってカメラがシャッターを切ろうとしたその瞬間――

「無礼な輩達だな、出て行けよ」

 土屋君が凛とした声で張り上げた。

「え?」

 取材の人達は一斉に戸惑った顔をした。けれど当の土屋君は意にも介していない。

「無礼だって言ったんだよ。描きかけの作品を前に、何の許可も無く勝手にシャッターを切る。君達に芸術を語る資格は無い。だから取材する必要が無い。無駄な時間だよ。さぁ、出て行ってくれ」

 凛とした声で頑として引かない土屋君を前に、取材陣達はさもつまらなさそうに踵を返していく。

「なんだよ、俺達だって高校生なんかに媚び売りたくねぇっつーの」
「土屋家って言ったって、次男のあいつには才能が無いって言うしな」
「そうそう、だから媚売る必要もねぇんだよ、それをゲージュツだとよ。笑わせる」
「おい、聞こえるぞ」