私のやんごとなき王子様 土屋編
5日目
理事長所有の島に到着した私達は、慌ただしい初日をなんとか終了した。
そして翌日――――
朝食を食べてから、すぐに担当毎の仕事が待ってる。
私は今日の予定を確認しながら、昨日土屋君からもらったラフ画を穴があきそうな程睨んでいた。
「美羽ー、そろそろ食堂行こー」
同室のさなぎの声でラフ画からやっと顔を上げた。気付かないうちに随分集中してたみたい。
やっぱり土屋君と同じ担当って言うだけで、否が応にも緊張しているのかもしれない。だって失敗何かしたら……正直コワイもの。
*****
朝食をとった後、早速大道具担当に割り当てられた大きな部屋へと向かう。
入室すると既に壁にも床にもブルーシートが張られていて、その中心で土屋君が絵具を片手に作業に入っていた。
「おはよー」
「おはよー」
周囲の生徒達に声を掛けながら、私も自分の担当の背景に取りかかる。土屋君から挨拶の返事は無かった。……既に自分の世界に入っているのだろう。
「土屋先輩、ここってどうすれば良いですか?」
そんな中、下級生が恐る恐る土屋君に声をかけた。
「ああ、それ? あそこの小日向っていう女子に聞くといいよ。それだけじゃなく、分からない事は全部彼女に聞くといい」
え!?
「はいっ! 分かりました」
下級生は何のためらいも無く、私の元へと向かってくる。ってちょっとぉ――
「土屋君! なんで私に」
私が声を上げた瞬間、土屋君はにやりと不敵に微笑みながら私を見据えた。
「僕はさ、自分の芸術に没頭したいから君をパートナーに選んだんだよ。君なら僕の感性と周りとのバランスを考えて的確なアドバイスを出来ると思ったからね」
「はぁ……」
「分かるかい? 買っているんだよ、君を」
え……? それって……?
土屋君から出た意外な言葉に思わず思考がストップしそうになる。
「小日向先輩って凄いんですね! あの土屋先輩に信頼されるなんて!」
美術の好きそうな下級生がキラキラと目を輝かせながら私を見つめている。う……そんな顔をされると、私も邪険になんて出来ないじゃない〜〜っ!
作品名:私のやんごとなき王子様 土屋編 作家名:有馬音文