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私のやんごとなき王子様 土屋編

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3日目


「先生、遅くなりました!」

 私は朝一番、教室に向かう前に職員室に立ち寄り、真壁先生に例の担当希望記入用紙を提出していた。
 頭を下げて用紙を握った腕をずいと差し出した格好のままで止まる私に、

「おう、決めたか」

 と、相変わらずの調子で笑ってそう言うと、先生は用紙を受け取った。次にそこに書かれた部署を見て頷く。

「……大道具か。うん、お前は美術の成績も良いし、きっといい物が出来るだろうな。しっかり頑張れよ」

 そう言って私に向かって優しく微笑んでくれた。

「はい。失礼します!」

 やっと清々しい気持ちが戻って来た。
 職員室から出て行く足取りも軽い。今なら誰よりも早く100メートル走れそうってくらい軽かった。

 絵を描く事は好きだった。
 正直、土屋君と同じって言うのは若干引っかかるものがあるけれど……。

 でも土屋君は才能のある人。
 だから自分の感性に合わない物を描くのが苦痛っていうのが、なんとなく分かる気がする。だとすれば、そんな土屋君を少しでも助けたいって思ったの。
 私には何の才能もないけれど、才能の無い人間だからこそ、何のこだわりも無く出来る事があるんじゃないかなって――
 そう思ったから。

 
 土屋君はきっと今も美術室にいるだろうな、って思いながら美術室へと向かう。
 その途中の廊下で土屋君とバッタリ出会った。

「あ……土屋君」
「? ああ、君か」

 土屋君は特に表情を変えるでもなく、私の方をすっとした瞳で見つめている。
 顔立ちだけは綺麗だから、私は少しだけ動揺しながら言葉を紡いだ。

「あ……、あのね、私っ」
「演劇祭の希望、大道具にしたんだね」
「えぇ?! なんで知ってるの?!」
「君の顔を見れば何でも分かるよ、僕は映し出す事の天才だから」
「は……はぁ……」

 尊大な彼の態度にはいつも驚かされる。というかちょっぴり引いてしまう。

「さ、じゃあ行こうか」
「ど……どこへ?」
「決まってるだろう。少し画材が足らないんだ。買いたしに行くんだよ」
「はぁ……」

 私が呆気にとられている間にも、土屋君は廊下をズンズン歩いて行く。

「早く来ないと置いて行くよー?」