恋愛風景(第1話~第7話+α)
番外.140字/280字シリーズ(50本)
(*全て、Twitter診断ツール「恋愛お題ったー」によるお題です)
〈1〉(10.8.8:「深夜の水族館」で登場人物が「抱きしめる」、
「星」という単語を使ったお話を考えて下さい)
暗い通路に水を照らす明かりが反射する。
水槽の中をゆらゆらと泳ぎ、光を受けて時折輝く魚たちは空を気まぐれにさまよう星、惑星みたいだ。
私の言葉に彼は笑う。
「意外とロマンチックだね。僕なんかこのマグロうまそうだなとか思っちゃうけど」
わあ雰囲気ぶち壊し、と返したら背中から抱きしめられた。
〈2〉(10.8.9:「深夜の廊下」で登場人物が「逃げる」、
「飴」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
逃げないで、と廊下を追いかけてくる声が言う。
赴任した卒業校。宿直の夜現れた元同級生。
「逃げるよ普通」
透ける顔で苦笑する彼女。
授業中に心臓発作で倒れ亡くなった。
「でも一言言いたくて。飴ありがとう」
その前日、風邪の彼女にのど飴を渡した。
さよなら、と好きだった笑顔を残して彼女は消えた。
〈3〉(10.8.10:「夜のソファ」で登場人物が「嫉妬する」、
「足音」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
足音を立てなかったのに、彼女は目を開いて頭をもたげた。
「他の子、来てたでしょ」
痕跡は全部片付けたのに鋭い。これも嫉妬深さ故か。
昼間の一時を思い出しつつも、気のせいだよとソファに横たわる彼女の隣に戻り、抱き寄せる。
彼女はすがりつくように腕を回してきた。きっと信じていないのだろうが。
〈4〉(10.8.11:「深夜の教室」で登場人物が「決める」、
「罠」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
やはり罠じゃないか、と思わざるを得ない。
呼び出された夜の教室、0時を回っても彼女は来ない。
きっとどこかで誰か見ていて、自分が待ちぼうけているのを笑っているんだ。と決めつけて机の中を探ると、夕方帰る時にはなかったはずの紙片。
《来てくれてありがとう。日曜朝10時、駅前で待ってるから》
〈5〉(10.8.12:「早朝の廃墟」で登場人物が「選ぶ」、
「魔法」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
かつて雑居ビルだった廃墟の中に、朝日がほのかに射し込んでくる。
夜が魔法をかけた甘い時間は終わった。
意識とともに、否応なく現実が目を覚ます。
先に起き服を整えた彼女が、荷物から瓶と細長いケースを取り出した。
「さあ選んで。薬と包丁、どちらでも好きな方を」
二人とも、帰る家はもうなかった。
〈6〉(10.8.13:「深夜の教室」で登場人物が「なぐさめる」、
「缶コーヒー」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
真っ暗な教室に差し込んだ光が大きく広がる。
家にいたくなくて飛び出して、忍び込んだ夜の学校。
現れたのは大好きな隣家のお兄さん。
「お父さん達、もうケンカしないって言ってたよ。帰ろう」
優しいなぐさめとともに差し出されたのは大きな手と、缶コーヒー。
泣きすぎた喉に冷たい甘みが心地良かった。
〈7〉(10.8.14:「朝のコンビニ」で登場人物が「共有する」、
「犬」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
帰りは私ねと念押ししたのに、彼が先にリードを取ってしまった。
コンビニまでの朝の散歩、最近は3ヶ月前飼い始めた豆柴も一緒。
この子は二人の共有なのに超犬好きの彼はすぐに独占したがる。
ずるい、と呟いた膨れ面に彼が笑った。
無言で私の右手を取り、その左手でリードを持ち直す。
「じゃ、帰ろう」
〈8〉(10.8.15:「昼の映画館」で登場人物が「ケンカをする」、
「手錠」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
話題の恋愛映画を観ながら、展開に反して心は苛々し通し。
映画館に入る前、お昼の最中に些細な事で喧嘩して、以降ぎくしゃくしたまま。銀幕の出来事さえ今は妬ましい。
…物語が幸せな結末を迎えた瞬間。
ささくれた手が手首ごと私の手を掴んだ。
それでいつも、私は手錠をかけられたように彼に囚われる。
〈9〉(10.8.16:「夕方のキッチン」で登場人物が「キスをする」、
「ハンバーガー」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
今日も彼女は習ったばかりの料理を夕食にしようと張り切っている。
今夜はハンバーガーらしい。
ソースがすごく美味しかったの、早く食べさせてあげたいなあと可愛らしく言いながら、キッチンで材料を混ぜ味見をしている。
ふと思いついて後ろから近づき、振り向いた彼女の唇についたソースをなめ取った。
〈10〉(10.8.17:「夜の映画館」で登場人物が「再会する」、
「弁当」という単語を使ったお話を考えて下さい。)
レイトショーが始まって30分後、注文した弁当が届いた。
「はい、ミックスフライ弁当ひとつ」
「……なんで?」
「なんでって、私の店だから」
最近この近くにできた弁当屋。味が良いと聞いたので頼んだら。
「まだ、ここ勤めてたんだね。そうだろうと思った」
数年前に別れた彼女の笑顔は昔と同じだった。
作品名:恋愛風景(第1話~第7話+α) 作家名:まつやちかこ