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まつやちかこ
まつやちかこ
novelistID. 11072
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恋愛風景(第1話~第7話+α)

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番外.140字シリーズ-5

〈41〉(10.9.16:「夜の旅先」で登場人物が「逃げる」、
         「手品」という単語を使ったお話を考えて下さい。)

 夕食の後、館内を探険した。
 こんな大きな所泊まるの初めて、と彼女は窓からの夜景や売店を飽きず眺めて回る。
 実は部屋で二人きりになるのを先延ばししていると気づいている。
 彼女の手を攫もうとしても、直前で手品のように逃げられるのだ。
 まあそんな照れ屋な面も好きだから、無理強いはしないでおく。


〈42〉(10.9.17:「朝の廃墟」で登場人物が「密会する」、
         「犬」という単語を使ったお話を考えて下さい。)

 半年前にカラオケが閉店して以来空き家になっている建物。
 その下のかつて駐車場だった空間で、朝いつも踊っている彼。
 音楽はないけど、彼には聴こえているようだ。目を閉じてステップを踏み続けるその姿を、犬の散歩の途中に毎日、こっそりと見る。
 彼にすら気づかれていない、私しか知らない朝の密会。


〈43〉(10.9.18:「夜の旅先」で登場人物が「なぐさめる」、
         「雷」という単語を使ったお話を考えて下さい。)

 そろそろ寝る?との硬い声に頷き、別々の布団に納まった。
 一線を越えない関係のまま来た旅行。
 気配を感じるだけでも緊張し、身じろぎできない。
 外の雨が強くなり雷が鳴り出してからは、怖さでますます縮こまる。
 …気づくと布団の中の温度が上がっていた。
 背中に接する温もりが、慰めるように私を包む。


〈44〉(10.9.19:「深夜の並木道」で登場人物が「騙される」、
         「花束」という単語を使ったお話を考えて下さい。)

 ごめん、急な残業。いつもの言い訳だからって慣れはしない。
 まして今日は誕生日。半年前から約束していたのに。
 憂鬱と共に暗い並木道を行く途中、樹の陰から突然人影。変質者かと怯んだら彼で、手にはコンビニで買ったらしい菊の花束。
 呆れると同時に少し嬉しくなる自分は、たぶんかなり騙されている。


〈45〉(10.9.20:「夕方の庭」で登場人物が「密会する」、
         「花束」という単語を使ったお話を考えて下さい。)

 待ち合わせは普段と違い、とある庭園の入口。
 少し遠いから職場の人は来ないだろうけど、何でここ?
 5時になると同時に周囲の照明が灯り、彼が現れる。
 手を引かれたどり着いたのはライトアップされた見事なコスモスの畑。
 見上げた私に「花束代わり」と彼ははにかむ。そして続けた。
 「結婚してくれる?」


〈46〉(10.9.21:「昼の駅」で登場人物が「溺れる」、
         「猫」という単語を使ったお話を考えて下さい。)

 休日の午後の駅で遭遇したのは試合帰りらしきジャージ姿の集団。
 降りてきた彼らの中で溺れそうな、小さい姿に釘付けになる。
 やせた子猫。
 電車が発車するのもお構いなしにしゃがんで手を伸ばしたら、横からもうひとつ。見上げた先に私より大きな手の持ち主。
 かち合った目を丸くし、次いで微笑み合った。


〈47〉(10.9.22:「夜の廊下」で登場人物が「見つめる」、
         「傘」という単語を使ったお話を考えて下さい。)

 残業中に廊下に出ると、窓辺で外を見つめる顔見知りの女子社員。
 何してんの、と問うと「雨、降りそうですね」少し憂鬱そうな答え。
 傘がないのかと思ったが、違った。
 沈黙の後に返った答えは「傘を差してたら暗くても目立つでしょう、待ち伏せ」。
 こちらを見上げる彼女の瞳の色に、心が引き寄せられた。


〈48〉(10.9.23:「朝のベッド」で登場人物が「キスをする」、
         「罠」という単語を使ったお話を考えて下さい。)

 寝起きの悪さは毎朝のことだが、今朝は特に酷い。一人娘の「ちゅー」でも駄目な位。
 軽快な足音が遠ざかり、暫しの間。
 「8時過ぎたけど?」
 宣告に焦りまくって起き上がると妻の苦笑い。時計は7時過ぎ。罠だった。
 「また飲みすぎたんでしょ。お粥作ったから」
 優しい声の直後、頬に柔らかな熱が触れた。


〈49〉(10.9.24:「昼の階段」で登場人物が「怖くなる」、
         「噂」という単語を使ったお話を考えて下さい。)

 噂は怖い。よろけて支えられただけで、昼間から抱擁していただのキスしていただのと瞬く間に尾鰭が付く。
 …その相手と鉢合わせしてしまった。あれ以来恥ずかしくて避けていたのに。
 早足ですれ違いかけた瞬間、腕を掴まれ階段脇の壁に押しつけられる。
 驚愕で動けない私に、囁く声。
 「噂、本当にしたい」


〈50〉(10.9.25:「深夜の旅先」で登場人物が「寄り添う」、
         「魚」という単語を使ったお話を考えて下さい。)

 聞こえるのは窓の外の潮騒と、互いの呼吸音。
 特に言葉も合図もなく、どちらからともなく自然に寄り添って、腕を回す。
 一夜を過ごす部屋をカーテン越しに照らす月明かりは、水の中に差し込んだかのように揺れている。
 淡い光と夜の底で二人、地上の喧噪を知らない魚のごとく、やわらかな海を存分に泳ぐ。