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私のやんごとなき王子様 波江編

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「最初はオデット姫の友人役で……僕は先輩にオデット姫をやってほしかったから、少し残念だったけど……でも心のどこかでホッとしていたんです。僕が王子の従者で先輩は姫の友人――少しだけ近づけたような、そんな気がしていました」

 そこまで言うと潤君は一つ息を吐き、その後自嘲気味に小さく笑った。

「でも違ってました。先輩はオディール役の代役を……あんなにも急なキャスティングだったのに見事演じきって……やっぱり先輩は凄いなって、僕なんかとは違う。僕なんか相手にされるはずない――分かってるんです。でも、それでも」

 潤君は私の目を真っ直ぐに見詰めると、一歩私に近付いた。

「それでも僕は先輩が好きです。僕なんか情けなくて頼りなくて、先輩の彼氏なんて到底務まらないかもしれません。でも僕――追いついてみせますから。先輩に似合う男になってみせますから! だからどうか……僕を」

 もう我慢が出来なかった。停止していた脳は早まる鼓動と同じスピードでフル回転している。

「潤君!」

 私は両手を広げて一歩大きく踏み出すと、潤君の胸に飛び込んで彼を強く抱きしめた。

「私も潤君の事が好き……! 好きなの……!」

 両腕にグッと力を込めると、潤君も私の背中にそっと腕を回してくれた。

「せん……ぱい?」

 恥ずかしくて顔なんて上げられない。でもこれだけは言わなくちゃ!

「潤君の事が好きだよ。私の方こそダメなんだよ? だって私は卒業しちゃうし、潤君は来年も再来年もこの学園にいられるし、そうなったらやっぱり私なんて」
「そんな事無いです!」

 私の言葉を途中で制した潤君は、体を少し反らせて私の顔を見下ろした。

「潤君……」
「そんな事ないです。僕は先輩しか見ていません。これからだって先輩しか見えません。たとえ先輩が卒業しても、僕の目が追うのはあなただけです」
「潤君……」

 潤君の顔がふいに歪んでみえた――違う、そうじゃない。私の涙で視界が滲んでるんだ。

「先輩」

 そっと目を閉じた。
 潤君の温かい手が私の頬を包み込む。

 少しの間の後、柔らかい感触が唇に触れた。

 永遠とも思えるような一瞬の接触――――

 私は涙で潤んだ瞳を開くと潤君を見つめ、もう一度だけ思いを吐いた。