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私のやんごとなき王子様 波江編

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「潤ーーーーっ!」

 熱を帯び始めた耳に、潤君を呼ぶ声が聞こえた。
 そちらに視線を馳せると、1年の女子がビーチボールを持ちながらこちらへと向かってきている所だった。

「あ、水原」

 潤君がぼそりと彼女の名前を呟いた。

「遅い! いつまでも何やってんのよ!」

 目の前まで来た水原さんはそう言うと、私などには目もくれずに潤君の腕を空いている方の手でぐいっと引っ張っり、自分の体に押し付けた。

「ひっつくなよ、暑苦しい」

 潤君は私や風名君には決して見せないような、ラフな表情で水原さんを押しやった。

「いーやーよ! みんなを待たせてる罰なんだからーっ」

 そう言いながら、彼女はより一層潤君に体を押し付ける。

「離れろって……」
「いーやっ!」

 二人はまるでじゃれあう子犬達のようだ。
 水原さんにぐいぐいと引っ張られながらも潤君は私の方へと振り返る。

「先輩! 先輩も一緒に行きましょう!」
「あ、うん。えっと……私、稽古場に忘れ物してきちゃったから、取りに行かなきゃなの。――後から行けたら行くね!」

 無意識に断ってしまった。

「ほらー、先輩は忙しいのよ! 潤はさっさと歩く!」
「分かったって! それじゃ先輩、後で! 僕、待ってますから!」

 潤君はそう言うと、水原さんに引かれるまま、ビーチの向こうへと去って行った。

 ……なんであんな嘘を吐いたんだろう?
 忘れ物? あまりにも薄っぺらい嘘に涙が出そうになった。
 なんで? 潤君が同じ1年の子と仲が良いのなんて当たり前じゃない。なのに――。

 私、一体どうしちゃったの?
 なんでこんな事でこんなにも傷ついてるの?
 
 自分で自分の気持ちがよく分からない。

 ――混乱する頭のまま私は、一人ビーチを歩いていた。