私のやんごとなき王子様 波江編
改札を出る前から潤君がこっちに向って大きく手を振っているのが見えた。
「小日向せんぱーい! 佐波山せんぱーい!」
声を出しながら子犬のように駆けてくる潤君に思わず顔がほころぶ。
「おはようございます!」
潤君は私達の前に辿り着くとビシッと頭を下げて挨拶をしてくれた。
「おはよ〜、波江君」
さなぎもそんな潤君の様子にほがらかな顔を見せている。
「荷物、お持ちしますっ!」
そう言うが早いか、潤君は私達二人分の荷物を肩にひょいっと掛けた。
「重たいからいいよっ」
そう制したが潤君はにっこりと笑って「これ位、なんて事ありませんよ!」と言ってくれる。優しいな――それに可愛くてもやっぱり男の子だ。
*****
私達の目の前には大きなフェリーが青空をバックに悠然と佇んでいた。
毎年理事長がチャーターしてくれるこの大型フェリーに乗って、理事長所有の島へ向かうのだ。
港に勢揃いした我が星越学園の全校生徒。とは言っても生徒数が少ないうちの学校だから整列した様子に圧倒されるってことはないんだけど。
ここからは各担当部署毎に行動することになるから当然さなぎとは一旦お別れ。
私は潤君と一緒に役者担当の集合場所へと向かった。
集合場所が見えてくると、風名君と亜里沙様が話をしているのが見えた。……本当に絵になる二人だなぁ。まるで今やってるドラマの撮影でも行われていそうな雰囲気だ。
「先輩、楽しみですね!」
「うん!」
やっぱり自分が場違いな気がして、少しだけ落ち込みそうになったけど潤君の明るい声が心底私をホッとさせてくれた。
作品名:私のやんごとなき王子様 波江編 作家名:有馬音文