私のやんごとなき王子様 波江編
3日目
「先生、遅くなりました!」
私は朝一番、教室に向かう前に職員室に立ち寄り、真壁先生に例の担当希望記入用紙を提出していた。
頭を下げて用紙を握った腕をずいと差し出した格好のままで止まる私に、
「おう、決めたか」
と、相変わらずの調子で笑ってそう言うと、先生は用紙を受け取った。次にそこに書かれた部署を見て少し驚いた顔をする。
「……演劇か。お前演技なんて出来るのか?」
「えっと、村人Dくらいならなんとかなるかと……」
「まあ、王子役の風名以外のキャストは今日投票とくじで決めるらしいし、村人Dになることを祈っとくんだな」
そう言って私の頭を軽く叩いた。
「はい。失礼します!」
やっと清々しい気持ちが戻って来た。
職員室から出て行く足取りも軽い。今なら100メートル走で自己ベストが出せそうってくらい軽い。
*****
私が選んだのは劇の出演者。風名君は相手役をやって欲しいだなんて言ってくれたけど、私にはそんな大役もちろん無理って分かってる。だけど潤君と同じようにヒロインの従者くらいなら、あるいは何とかなるかもしれない。
ううん、それすらも私からしたらとんでもない大役。さっき先生に言った通り、私には村人Dくらいが分相応。だけど……。
潤君があんな風に誘ってくれるものだから、少しだけ勇気が出たの。潤君と一緒に笑いながら過ごせたら、きっと苦しい練習だって乗り越えれると思う。それに間近で風名君と亜里沙様の演技を見れるなんて、実はすっごい事だし。って、ちょっとミーハーかな?
でも自分の意志で出演者側を選ぶ人は、本当にごくわずかなんだよね。だって、ほら、うちの学校本物の芸能人がいっぱいでしょ? 一般人で立候補するのはよっぽどのアホか大物。 風名君を始めファンの子が抜け駆けして出演者になるのを選ぶっていうのはうちの生徒に限ってないから、ちょっと罪悪感……っていうか、周りから何て言われるかちょっと不安。
「うわ、今更怖くなってきちゃった……」
どっと後ろから押し寄せて来たマイナス思考に思わず足を止めると、そこは1年生達のクラスのある4階だった。
「先生、遅くなりました!」
私は朝一番、教室に向かう前に職員室に立ち寄り、真壁先生に例の担当希望記入用紙を提出していた。
頭を下げて用紙を握った腕をずいと差し出した格好のままで止まる私に、
「おう、決めたか」
と、相変わらずの調子で笑ってそう言うと、先生は用紙を受け取った。次にそこに書かれた部署を見て少し驚いた顔をする。
「……演劇か。お前演技なんて出来るのか?」
「えっと、村人Dくらいならなんとかなるかと……」
「まあ、王子役の風名以外のキャストは今日投票とくじで決めるらしいし、村人Dになることを祈っとくんだな」
そう言って私の頭を軽く叩いた。
「はい。失礼します!」
やっと清々しい気持ちが戻って来た。
職員室から出て行く足取りも軽い。今なら100メートル走で自己ベストが出せそうってくらい軽い。
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私が選んだのは劇の出演者。風名君は相手役をやって欲しいだなんて言ってくれたけど、私にはそんな大役もちろん無理って分かってる。だけど潤君と同じようにヒロインの従者くらいなら、あるいは何とかなるかもしれない。
ううん、それすらも私からしたらとんでもない大役。さっき先生に言った通り、私には村人Dくらいが分相応。だけど……。
潤君があんな風に誘ってくれるものだから、少しだけ勇気が出たの。潤君と一緒に笑いながら過ごせたら、きっと苦しい練習だって乗り越えれると思う。それに間近で風名君と亜里沙様の演技を見れるなんて、実はすっごい事だし。って、ちょっとミーハーかな?
でも自分の意志で出演者側を選ぶ人は、本当にごくわずかなんだよね。だって、ほら、うちの学校本物の芸能人がいっぱいでしょ? 一般人で立候補するのはよっぽどのアホか大物。 風名君を始めファンの子が抜け駆けして出演者になるのを選ぶっていうのはうちの生徒に限ってないから、ちょっと罪悪感……っていうか、周りから何て言われるかちょっと不安。
「うわ、今更怖くなってきちゃった……」
どっと後ろから押し寄せて来たマイナス思考に思わず足を止めると、そこは1年生達のクラスのある4階だった。
作品名:私のやんごとなき王子様 波江編 作家名:有馬音文