私のやんごとなき王子様 風名編
「どうかしたのか?」
答える風名君をそっと伺うけど、いつもと変わらない。告白された事に対して、風名君はどう感じているのだろう?
「この間の返事を……聞かせて頂けますか?」
あれから2日、考える時間は十分にあったはずだ。でもこの場に私がいてはいけない。
「あ、えっと。大事なお話みたいだね。それじゃあ私は違う所で見て来ようかな……」
そう言って立ち上がり、二人の間を抜けようとしたその時。風名君も立ち上がった。
「小日向、すぐ終わるからちょっと待って」
「え? でも……」
驚いて足を止め、海の上に浮かぶ花火をバックに佇む風名君と亜里沙様を振り返る。
すぐ終わるってどういう事? 私がいる目の前で返事をするなんて、どうしたらいいの?
亜里沙様は何も言わず、じっと風名君を見つめている。その姿はまるで白鳥に姿を変えられ、愛する王子を待つオデット姫のようだった。
「桜、俺は……お前の気持ちに答える事は出来ない」
!?
私と亜里沙様は同時に体を硬直させた。花火が空中で爆発する音が足元から伝わる。
何も言えず、ただ黙って事の成り行きを見守る私の耳に、亜里沙様の震える声が聞こえて来た。
「どうしても……ですの?」
「……ああ、どうしても無理なんだ――ごめん」
「――そうですか。分かりました……失礼します」
花火の音にかき消されて亜里沙様の声は聞こえなかったけど、ゆっくりと頭を下げて踵を返す亜里沙様の姿に、私は泣きそうになった。
「か、風名君っ」
動揺しているのが分かる。手が震えている。
亜里沙様は本当に風名君の事が好きで、すごく勇気を出して告白をしたのに。それなのに!
「小日向。ごめんな、せっかく花火見てたのに」
「どうして? どうして亜里沙様の告白を断るの?!」
自分だって風名君の事が好きなくせに、なんて間抜けな質問をしているんだろう。だけど亜里沙様の姿はもしかしたら私だったかもしれない。そう考えると言わずにはいられなかった。
「どうして? ……じゃあ小日向は好きでもない人と付き合えるのか?」
「っ!? そ、それは……」
作品名:私のやんごとなき王子様 風名編 作家名:有馬音文