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私のやんごとなき王子様 風名編

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 風名君は約束通り夕食後部屋まで迎えに来てくれた。

 さなぎはとっくに米倉君と出かけていなかったけど、私はずうっとドキドキしっぱなしだった。隣りを歩く風名君の話し声もどこか遠くて、相づちを打ってはいるけどどんな話しをしていたのか、内容は覚えていない。

「この辺なら人も少ないな」

 そう言って腰を下ろしたのは少し高くなった岩場だった。そんなに足元も悪くないし、座るのに丁度いい高さの岩があってそのくぼみに並んで座る。
 ふと横を見ると岩場から離れた海岸や宿舎の窓にはたくさんの人影があって、花火が上がるのを今か今かと待ち構えていた。

「もう始まるよ」

 風名君が言い終わると同時に、近くの海面からシュルシュルと第一発目の花火が打ち上がった。

 ドーーーン!!

 大音響を響かせ、心臓の内側から体全体を振るわせるような振動が走り抜けた。
 夜空に弾けた大きな色鮮やかな花火に、一斉に喝采が起こる。

「わあ……綺麗」

 ここ数日綺麗という言葉を、私は何度使っただろう。風名君と一緒に見ているというだけで、色んなものが鮮やかに美しく映る。恋をするって、こう言う事なのかも知れない。
 見慣れた物や風景が一味違って見える……なんて素敵なんだろう。
 次々と重力に逆らって空へと投げ出されて行く花火の雨に、私は時間を忘れて魅入っていた。

「こんだけ近いと、さすがに迫力だな」
「うん、音も花火も大きいね」

 緊張の糸は花火のおかげで解れたみたい。花火の反響音の中、そう言って笑う風名君の顔が私のすぐ傍にあっても自然と会話が出来た。

「あ、俺この花火好き」

 風名君が言ったのはまるで柳の葉のような緋色の大きな花火だった。

「なんか華月みたいじゃない?」
「利根君?」
「そ。静かで繊細で、だけど弱々しくなくて綺麗」

 じっと花火が消えて行く様を見つめて言う風名君は、本当に利根君の事を幼なじみとして大切に思っているみたいだ。私は利根君の顔と同時にさなぎの笑顔を思い出してクスリと笑った。
 米倉君と二人とても幸せそうだった。さなぎが嬉しいと、私まで嬉しくなる。

「玲君」