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私のやんごとなき王子様 風名編

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 今日の練習は大変だった。何故なら衣装を着て、本番さながらの緊張感の中での練習だったからだ。

 昼にさなぎから衝撃の彼氏出来ました宣告を受けて、幸せな気分のまま午後の練習に入ったのだけど、暑さと苦しさで途中からはさなぎの幸せをかみしめる余裕も無かった。

 さらには部屋の中央で見つめ合うジークフリートとオデットのあまりの艶やかさに、嫉妬を通り越して本当の物語の二人を見ているように惹き付けられた。本当にお似合いの二人だと、隣りに立っていた女の子達の囁きに思わず頷いてしまいそうになる。

 でも……やっぱり私は風名君が好き。どんなにお似合いでも、亜里沙様が風名君の隣りに立つに相応しい人でも、嫌なのだ。
 いつの間にかさなぎの事から亜里沙様の事へと思いが切り替わった私は、締め付けられたウエストみたいにしかめた顔でオディールの役を演じたのだった。


 熱くて辛い稽古もようやく終わり、衣装担当者と動きやすさなどの確認をして今日の練習は終わりとなった。

「ふうっ……」

 衣装からTシャツに着替え、早くシャワーが浴びたいと思っていた時、風名君がやって来た。

「お疲れ、さすがに衣装着ると暑いよな」
「お疲れ様。ふふ、本当だね。頭がぼーっとしちゃったよ」
「小日向の衣装、すごく似合ってた」
「やだ。風名君の方が似合ってたよ」

 そう、風名君は本物の王子様のように格好良くて素敵だった。女の子だけじゃなく、室内にいた全員から溜息が漏れる位。

「そうかな? ――ところでさ、今日花火大会って知ってた?」
「あ、うん。聞いたよ」

 昼にさなぎに教えてもらった裏情報付きで。

「見に行こうか」
「え?」

 昨日の夜、海に誘ってくれた事を思い出し、私の胸はざわついた。

「夕食食べた後ぐらいに始まるだろ? だから、後で部屋まで迎えに行く」

 ドクン!

「うっ、うん……」

 笑顔で別れを告げ私の前から去って行く風名君を見送り、私は鳴り止まない心臓の音に拳を強く握った。

 まさか本当に風名君と一緒に花火を見られるなんて――