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私のやんごとなき王子様 風名編

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「星越に入学してしばらくした頃、仕事で早退しなきゃいけなくて玄関で靴を履き替えてた時にさ、話し声が聞こえて来たんだ。隣りの靴箱だったから顔は見えなかったけど、女の子が何人かで話してて……その時一人が俺の悪口を言ったんだ。ああ、またか。ってうんざりした時、別の一人がこう言ったんだ『風名君は努力してる。努力しない人が何年も芸能界みたいな特殊な環境の中で仕事を続けられる訳が無い。だから、影ですごく努力してるんだ。良く知りもしないで悪く言うのはおかしい』って―――」

 私ははっとした。その情景が記憶の中にあったのだ。

 確か同じクラスの女の子達と玄関で話しをしていた時だ。一人が風名君は親の力で芸能界の甘い汁を吸っている。顔が良いだけで他には何も無いと言ったのだ。それに腹が立った私は、詳細まで覚えていないがさっき風名君が言ったような事を言って喧嘩になったのだ。

「俺はその言葉を聞いた時、すっごい嬉しかった。ちゃんと俺の事を分かろうとしてくれる人もいるんだって。努力すれば結果が着いて来るんだって……だからさ、小日向……お前には感謝してるんだ」
「風名君……」

 どちらの体温が上がったのか分からなかったけど、急に私は熱を感じた。
 一年の頃のそんな些細な出来事を覚えていてくれたなんて、すごく嬉しい。私の方こそ、風名君に感謝してる。

「その後小日向さんは良い子ぶってる! って聞こえて、俺を庇ってくれたのが小日向だって分かったんだけどさ。でも、あの時の小日向の言葉は偽善的じゃなかった。俺の心に真っ直ぐに届いたんだーーだからずっと、もっと小日向と仲良くなりたいって思ってたのに、気付いたら3年になっちゃって……ずっと同じクラスだったのに、すごいもったいないことしたなあって後悔してたんだ。だから、最後の演劇祭に勇気を振り絞って劇の出演者にならないかって誘ったんだ……OKしてくれて、ホントありがとな」
「ううん! 私は何もしてないよ。風名君が頑張ったからだよ……こっちこそ、誘ってくれてありがとう。劇も、この素敵な洞窟も……」

 風名君の背中にそう言葉を落として、私はポトリと涙も一つ落とした。
 どんどん風名君の事を好きになる気持ちが止まらなくなる。

「そろそろ帰ろうか。まだ水が高くなって来てるみたいだし」