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私のやんごとなき王子様 風名編

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「そんなの、風名君お仕事なんだから気にしなくていいのに……そうそう、昨日のテレビ見たよ! 風名君、歌も上手だよね。CD出たら絶対買うから!」
「見てくれたんだ? はは。CDくらいプレゼントするよ」
「えっ!? なんで?」
「昨日のお礼」
「ええ〜? いいの? ありがとう、すごい嬉しい!」
「俺、歌って苦手なんだけどさ、小日向が上手って言ってくれるとなんか自信出る」
「本当に上手だよ。私なんて全然、音痴で……カラオケ言ってもさなぎに毎回上達しないってバカにされるもん」

 格好いい衣装を着てダンスを踊りながら歌う風名君は本当にかっこ良かった。
 あんな風に歌って踊れたら楽しいだろうなあ。
 私の言葉に苦笑する風名君をちらりと見上げていると、すごく甘い香水が香って来た。

「玲君」
「あ、亜里沙様。おはようございます!」
「桜」

 私達の前から人をかき分けやって来たのは、亜里沙様と取り巻きの人たちだった。
 取り巻きの人たちは相変わらず凄い顔で私を睨んでる。
 ……なんなのよ、そんなに怖い顔しなくってもいいじゃない!

「御機嫌よう、小日向さん―――玲君、私、あなたに少しお話がありますの。演技のことで打ち合わせをしたいのですけど……」

 そう言って亜里沙様は私の顔をじっと見た。
 あれ? これってもしかして私が邪魔って事?

「フェリーに乗ってからでいいだろ? ほら、もうすぐ順番だし」
「ええ、構いませんわ。小日向さん、あなたもご一緒にどうです? 私の友人役なのですから、話を聞くだけでもきっと勉強になりますわよ」
「えっ? 私……?」

 まさか声を掛けられるとは思っていなかった私は驚いた。邪魔だから見たんじゃなかったのかな。
 亜里沙様の取り巻きがその言葉に驚いていて、口々に亜里沙様は優しすぎるとかこんなド素人では亜里沙様のお話について行けないとか、本人を目の前に失礼な事を言いたい放題言っている。
 ――まあ、確かにド素人ですけど。

「小日向も一緒に話そう。皆で話した方が流れも掴みやすいだろ?」
「でも、いいの?」
「何言ってんだよ、当たり前だろ? 同じ劇の出演者なんだからさ」

 風名君がそう笑いかけるのと、乗船の順番が回って来たのは同時だった。