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司令官は名古屋嬢 第2話 『大晦日の群像劇』

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第3章 人生の転機



同日午前9時頃、
中京都(旧愛知県)渥美半島伊良湖岬・CROSS原子力充電所にて。



 その施設の広い敷地内には、CROSSの船が着陸していた。どうやら基地から移動してきたようだ。船体上に、新しい鳥の死骸が追加されていた……。
 着陸している船の船体には、充電所の変電施設から伸びる太いケーブルが接続されている。艦は現在、バッテリーの充電中なのであった。ただ、充電といっても、1時間もかからずに完了できる。
 充電中の短い時間、数体のロボットが船体上を移動しながら、汚れた船体を洗浄していた。当然だが、鳥の死骸はキレイに排除された。

 艦の横を、守山と山口が歩いていた。守山は私服姿で、このクソ寒い中、ミニスカートをはいている……。山口のほうはというと、CROSSの軍服(指揮官用・冬服)をだらしなく着ている……。
「……この大晦日にこんなところに呼び出して、いったい何の用ですか?」
「こんなところって……。 ここは、オレたちCROSSなどの艦船のための重要な施設なんだぞ」
「原子炉の管理や保安の面で、県民にまだ不安が残っています。充電所付近の住民などの抗議活動も続いています」
「……そんな連中は全員、原子炉の中にぶちこんでしまえ!」
語気を強めてそう言う山口に、守山はため息をついた。
「そんな過激なことを言うから、『幻想共和国』の新聞に『異次元一のゆとり』とか書かれるんですよ……」
「……ほっとけ! それと、この充電所も原子炉も安全だ。最新式の帝国連邦製の警備ロボットとコンピューターシステムがある」
「……そんなに安全なら、名古屋のど真ん中に建てればいいじゃないですか!?」
「そんなに怒るなよ、鬼百合ちゃん」
「笹百合です!!!」
「ああ、悪い悪い! ……話を戻すぞ?」
「わかりました。それで何の話なんです?」

 そこで山口は、大きく深呼吸をした。
「……うちのCROSSに入らないか?」
「は!?」
守山は、思わず呆然とする。いきなりこんな転職話が来るなんて、まったくの想定外だったからだ。
 そんな彼女に構わず、彼は話を続ける。
「CROSSに欠員が出たんだ。普通の隊員の補充なら、残っている連中を回せばなんとかなる。だけど、優秀な側近にするには心細い」
「……私に、何の仕事をさせるつもりですか?」
彼女は思わず尋ねた。すると彼は、船のブリッジのほうを指さす。
「この特務艦の火器管制主任と私の補佐兵になってもらうよ。給料は今の3倍だ」
「…………」
心の中で戸惑っている状態の彼女は、黙り込むしかなかった。そんな態度の彼女に、せっかちな彼はもうしびれを切らしたらしく、
「おまえ、CROSSに入りたいってオレに言ってたじゃないか!」
そう強く言った。だが、彼女は考える時間が欲しいらしく

「……少し時間をもらえませんか?」
彼女は真剣な目つきで言った。すると彼は、仕方なくという感じで、
「……わかったよ! ただし、今年中に返事をしてくれ!」
考える時間を彼女にプレゼントした。
「……それってつまり、今日中ってことじゃないですか! 今日は大晦日なんですよ!」
たいしたプレゼントではなかったようだ……。
「そうだよ。だけど、こっちは忙しいんだよ。1週間以内に出発するつもりなんだから」
「……1週間以内に出発するなんて話、初耳ですよ……」
「あれ? 連絡来てないのか?」
守山はため息をついた。
「連絡はちゃんとしてください! 今朝も大須さんが恥をかいたんですよ!」
「悪い悪い。どうも最近、集中力が下がっていてな。とにかく今日中に返事を頼む」
山口はそう言うと、どこかに行ってしまった。守山だけがその場に残された……。



 守山はその場で必死に考える……。 

{確かに私は以前、山口に直接「CROSSに入りたい」ということを言ったわ。 だけど、そのとき山口はただ笑っていただけだったし、私もまだ中一で、異次元中を貿易のために回っていたパパにあこがれて軽々しくそんなことを言っただけ……。それに、ナナねぇ(大須奈菜のニックネーム)と離れることになるじゃない! ……でも、このチャンスを逃したら、この『偉大なる田舎』の名古屋で定年まで働かなくちゃいけなくなるかも……。返事は今日中だなんて、どうしよう……}

守山は頭を抱えた……。