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ポップコーン

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 中学校に進学すると、私とMちゃんとは疎遠になった。

 特に理由があったわけではない。クラスが別々になったし、私は部活や委員会で忙しくなったせいで、彼女との共有する時間が少なくからだと思う。
 それでも廊下ですれ違えば挨拶もするし、移動クラスで一緒になれば会話もした。けど小学校の時のような濃密な関係にはならなかった。

 Mちゃんが中学校の3年間、何を考えていたのか知らない。

 高校への進路を決める時期に何となく、Mちゃんに「どこの高校に行くの?」と聞いたら、Mちゃんはどの高校に行くとも言わず「東京に行きたい」とだけ言った。
 そのとき単純に「東京の学校に行きたいのかな?」と思った自分を殴ってやりたい。このときMちゃんの心には、嵐が吹き荒れていたのだ。

 Mちゃんは地元の定時制高校へ進学した。昼間は働いて、夜学校に行くのだ。
 初めてそのことを聞かされた私は、心底驚いた。Mちゃんの家は決して貧しくはなく、普通の家庭に見えたからだ。彼女には年上の兄が2人おり、普通高校に進学したと聞いている。それなのに、何故彼女が定時制へ?
 「女は勉強する必要は無いんだって」とMちゃんが言った。

 はあ?

 まさに「はあ?」である。今時そんな時代劇のような理由で、彼女の進学を認めない親がいるのかと初めて知った。
 後から聞いたのだが、進学について学校と家庭とでかなり揉めたらしかった。彼女の学力は進学を諦めるには惜しいレベルだったらしい。
 さっさと稼いで家に金を入れて欲しい親と、生徒の前途ある未来を閉じないで欲しいと訴える学校との折り合いの果てが、定時制高校への進学だったと言うわけだ。

 当時、卒業してバラバラになる友達やクラスメイトにサイン帳に何か書いてもらう習慣があった。みんなサイン帳には、自分の名前と生年月日住所や電話番号を書き、最後に一言メッセージを残すのがパターンだった。
 私もMちゃんにサイン帳を書いてもらった。後日、返されたサイン帳のメッセージを読み、彼女の悲しい心中を改めて思い知らされた。

「○○ちゃんへ 
  小学校からずっと遊んでくれてありがとう。
  マンガやテレビの話、とても楽しかったです。
  高校は離ればなれになるけど、時々会おうね。
  私は大人になったら、東京に行きたい。……なんちゃって」

 『なんちゃって』の一言が、全てを諦めているようでとても悲しかった。


 それから私とMちゃんの接点は完全になくなった。
 時々Mちゃんから電話が掛かってくるのだが、どういう訳かいつも私は不在で、コールバックも出来なかった。

 それから何年もたち、風の噂で彼女が年上の男性と結婚したのを聞いた。結婚して東京へ行ったらしい。ある意味、彼女は夢を叶えたのだと思った。

 あのポップコーンは宗教の勧誘の際、子供がいる家庭に配るのだそうだ。

<了>
作品名:ポップコーン 作家名:asimoto