YEAH!! 年末
思わず、悲鳴をあげた。猫だ。足元で構える三毛猫に、影山は見覚えがあった。けれどまたそれは力強く飛び掛ってくる。咄嗟に腕で払うが、絶妙に肩に爪を立てられる。肩に乗ろうとするその猫を、必死に剥がして床に叩きつける。猫はひらりと床に降り立ち、奥へと逃げた。呆然としている藤宮の後に隠れる。
「何だいったい!そいつは!」
コラコラとか言いながら猫を抱く藤宮を、影山は怒鳴りつけた。猫に触られたところを無意識に掻いている。
影山の剣幕に驚きつつ、罵倒されるのに慣れている藤宮は取り乱したりしない。
「コンビニの駐車場にいたんだ」
「いちいち拾ってくるな!」
「足引きずってたんだよ、車に轢かれたのかもしれないし」
「俺を攻撃してきたぞ!」
確かに、抱いた猫の後ろ足をよく見ると、別に異状もないし痛がりもしない。
「ビックリしたんだよ」
「俺がビックリしたわ!」
もっともである。しかしそれでも大げさな拒否反応だ。
「……猫嫌いなのか?」
「猫?」
忙しく体を掻きながら、影山は、藤宮の懐のそれを見た。小さな生き物と、視線が絡み合う。影山は、改めて、状況を把握した。
おもむろにその首の皮をつまみ上げ、窓を開ける。
「アパートは生き物禁止だ!」
「わぁっ!」
三階から投げ捨てようとするのを、藤宮が必死に取り返した。
「わ、わかってるよ、でも……」
その勢いで、猫は短く啼いて部屋の隅に逃れる。そして机の上に飛び上がった。
机には、藤宮が通学に使っている鞄が放置してある。その臭いを嗅ぎ、中を気にする。
「餌なんてないぞ」
藤宮がまた抱き上げようとすると、嫌がった。そして鞄のポケットを鼻先でつつき、藤宮を見上げ鳴いた。
「どうしたんだ? 何かあるのか?」
なんとも執拗に鳴くので、藤宮も気になる。なにか猫の好きなものでも入れてただろうかと、そのポケットを開けて、探った。道端でもらったティッシュの使いかけと、古いレシートが数枚出てくる。その中に、カラフルな色使いの紙片が十枚、折り畳んで挟まっていた。
「あ、これ。前に買ってた宝くじか」
何かで買ったきり、忘れていたのだ。藤宮は、じっくりとその宝くじの小さな文字を読んだ。猫も、それをじっと見つめている。
「あ……、引換期限今日までじゃん」
藤宮は携帯を出し、当選番号を確かめようとネットにつなぐ。