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瞳 ~あなただけを見つめる~

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   * * *

 ほんのり照明を落とした店内。抑えた会話と食器が鳴る音が喫茶店に響いている。
「ごめんね、瞳」
 小板橋が隣に座る大塚を覗き込むようにして謝った。
「もう大丈夫、ごめん心配させて」
 只今、喫茶店で四人、お冷を前に反省会を実施中。
「あたしはさ。わかってたよ、瞳が弘樹……真下のこと好きだってことも、――……」
 そこでちらりとオレを見る小板橋。バレてましたか。にへへと汗をかきながらお冷を一口。
「真下が直情型ってことは告られて実感したけど。だめだよ、どんなに気の置けない幼馴染だろうと、隣に誰かいるところで告白なんてしちゃあ」
「……まあ、な」
 今度は真下が罰が悪そうにお冷を一口。
「あたしたちが付き合うことで瞳が自分の気持ちに気付いて、そんで何か行動に移せればいいなー、って思ってOKしたんだけど……なかなか難しいね」
 苦笑する小板橋の唇は潤っている。キス後にリップグロスを塗るとは玄人ですな。それに気付いたオレに口の端を上げてふっと笑う、小板橋は大人だ。
「で、せっかく夏山が瞳のために? 動き出したんだし、あたしも動こうかといちかばちかでWデート提案したんだけどぉ……」
 じろり、いい意味じゃなくて悪い意味で焦げ付きそうな程熱い視線を真下に突き刺し、小板橋は唇を尖らせた。
「夏山と何話したか知らないけど、瞳の前でキスするとかマジ信じらんない!」
「瞳がいるって知らなかったんだよ」
「じゃあ何でいきなりキス!? 普通Wデートじゃしないでしょ! 瞳たちの騒ぎがなければ拳一発くれてるところよ!」
「っつーかさ、Wデートって言い出したのお前じゃん? 何、瞳瞳って、お前俺のこと好きじゃないわけ?」
「好きよ大好きよこれで文句ない!?」
「ま、まあ二人とも……」
 大塚が向かいに座る二人をなだめる。そりゃ自分をネタに痴話喧嘩されちゃたまったもんじゃないよな。焦る大塚を見て小板橋が大きく息を吐き、お冷を飲んだ。
「……瞳から聞いてたからね、ヒロちゃんはすごいんだ、ヒロちゃんは格好良いんだ、ヒロちゃんはヒロちゃんは……。毎日毎日、繰り返されちゃ自然と目で追うようになっちゃうわよ。だから告白自体は嬉しかったのよ? 状況に難はあったけど」
 「プリンアラモードのお客様」、ウェイトレスがにこやかにプリンアラモードを持ってきた。オレもにこやかに笑い軽く手を上げ、笑顔と共にアフターファイブのおやつを迎える。そしてアイスコーヒーを真下の前に置き、ウェイトレスは一旦下がった。
「うん、だから、幸せそうでよかったって……」
 口ごもる大塚に、小板橋が噛み付くようにテーブルを叩いた。
「第一に自分の幸せを大切にしなさい!」
 オレはやわらかなプリンにスプーンを入れる。
 怒る小板橋を見て思う。こいつって大塚のこと好きだよな。中学来の付き合いだったはずだけど、ここまで心配して気を回してくれる友人なんて貴重だぞ、大塚。大事にしろよ。
 生クリームと一緒に食べるプリンは美味しかった。これならパフェも期待できそうだ。
「自分の幸せ……?」
「そうよ! もうこの際だからほら! 告っちゃいなさい!」
 立ち上がる勢いで捲くし立てる小板橋にぎょっとしたように大塚が手を振った。
「なッ、今更! いいよ、恥ずかしい!」
「何言ってんのよ! ここまできたら真下も言って欲しいでしょ!? ねッ!」
 問われた真下といえば、ストローでアイスコーヒーをぐるぐる掻き混ぜている。顔は真っ赤で俯き加減。やめてくれといったかんじ。
 プリンは相変わらず美味い。突き刺さったリンゴもしゃくしゃく良い歯ざわり。飲み込んで挙手する。
「待った。大塚、これ」
 ぺったんこの鞄から、ピンクの包みを取り出し、じたばたしてる大塚に手渡す。
「何これ?」
「やる。告白するなら可愛くなれ」
「あッじゃあ、あたしも!」
 そう言い、小板橋も鞄をごそごそ。その隣で大塚は戸惑いながら包みのセロハンテープを切った。
「あ……」
「わあ可愛い!」
 取り出されたのはひまわりのヘアピン。「さっき買っといた」と告げながら、メロンを口に運ぶ。
「えっ知らなかった。いつ?」
 お前がヒロちゃんに夢中になってるときに。とのセリフはメロンと共に飲み込む。
 いいの? いいの。問答を二、三回繰り返して、大塚がひまわりを飾る。小板橋が手鏡とリップクリームを手渡した。
「それで整えて。はい、男共見ない」
 言われてプリンを口に含んだままそっぽを向かされる。そこでオレはあることに気付くが、口にすれば大塚が怖気つくと思ったのでやめておく。
「え、と……ヒロちゃん」
「は、ハイ」
 いつの間にか告白体勢に入っていたらしい。真下の目線が気になるのか、大塚が髪を耳にかけ数呼吸分視線をズラす。そして、ついと正面を見据える。
「ずっと、好きでした」
 ごく。唾を飲み込んだのはオレだけじゃないはずだ。ひまわりは動かない。告白をする人間って、こんなに真剣なんだと、オレと比べて頭が下がる思いがした。まっすぐ自分を映す瞳を見られる真下が羨ましかった。
「……ごめん。でも、――ありがとう」
 真下が頭を下げた。
 ぱん、ぱん。
 手を叩く。すると、ずっとこちらを気にしていたお客たちが一斉に拍手しだして、喫茶店は一時拍手でいっぱいになる。
 望んだ形じゃないだろうけど、大塚。幸せって、こういうもんだろ?
「プリントールパフェのお客様」
 ウェイトレスが再度現れ、オレが手で示す大塚の前に長身のプリンパフェを置き、抹茶パフェを小板橋の前に置いて去っていった。店内が通常の空気に戻っていく。
「おごりだ、食え」
「あ、ありがとう」
「あたしも?」
「大塚だけだバカ」
 和やかにおやつタイムになると思った。食べろと促すと、「そういえば夏山」と、斜め向かいから大塚がオレを見た。告白を終えたばかりの好きな子は輝いていて、オレは思わず好きだと改めて伝えたくなる。
「朝言ってたやつだけど」
 どきりとした。ちょっと待て、おい、お前、何言う気。
 内心慌てふためくオレに、ひまわりがことりと傾がれた。
「夏山は、誰に失恋したの?」