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エイプリル・フール(第二部)

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*この作品は連続している作品であり、第二部となっております。第一部の続きです。これだけを読まれても内容は理解できませんので、御承知下さい

~第一章~

西洋に四月一日には嘘をついてよい、という風習がある。そのことをエイプリル・フールと言い、人々は害のない、軽い冗談を言い合う。
そのエイプリル・フールの日から五日間。それが大橋圭介に与えられた時間だった。彼は娘をロンドン・アイと名乗るテロリスト集団に拉致され、救助に日本まで向かう。しかし、そこで知らされた事実はとんでもない物だった。

四月四日の夜。クラブSEIYAでバラバラだった三人の男の運命が一つになろうとしていた。
自分の会社に騙されていたと告知された圭介。
目の前で何かが崩れて行く気がした。山岡が言った言葉が頭の中でドロドロと響く。まさか、今まで全力を尽くしてきた小笠原貿易に騙されていたなど、信じがたい話だった。
井上と名乗った男が神妙そうな顔つきで圭介の顔を覗き込んだ。
「やっぱ、ショック大きいよね。」
そう言いながらちゃぶ台の上にあった煙草の箱から一本取り出し、くわえた。ポケットを探り、ライターを見つけて火を付けた。
圭介の方を向き、箱を差し出した。
「吸う人?」
完全に上の空だったが、その時だけ一瞬我に返ったように首を振った。
時間が刻一刻と過ぎて行く。しかし、もうそんなタイムリミットはなくなったかのように感じられた。
しばらくして、山岡がもう一度話しかけて来た。
「大橋。信じられない気持はよく分かるがな。ここは一つ、俺らの話を聞いてくれないか。」
今一度圭介は我に返った。
「ちょっ、ちょっと待って下さい。山岡さんには失礼ですが、どう貴方たちを信じろというのですか。私は。。。特にこの男にさんざんな目にあわされて来たんですよ。」
圭介は井上の方を指差した。
「まぁ、落ち着け。話を聞けば分かってもらえる。とりあえず、井上がお前にやってきた事全て演技だ。」
「演技?」
「ああ。」
「じゃ、真美、真美はどこだ?」
山岡と井上は顔を見合わせた。井上が口を開いた。
「真美さんは、ロンドンにいます。」
次の瞬間、圭介は井上の襟をつかんで乗りかかっていた。ちゃぶ台の上にあった煙草の箱が床へ飛んで行き、灰皿もひっくり返ってしまった。
「てめえ、舐めてんのか?!じゃ何で私はここまできたんだ!!全ては真美を助けるためだ!全てな!違うか?!」
井上はせき込み、苦い顔をした。
「違うんだって。放せよ、俺は真美さんの命を守るためにそうしたんだよ。」
襟をつかむ力は一向に緩まない。グイっと井上を自分の顔の方に引き寄せた。
「なんだって?この野郎!」
床に散乱した煙草の吸殻と灰をちりとりで片づけながら山岡が口をはさんだ。
「まぁ、落ちつけ大橋。そいつの言ってる事は紛れもない真実さ。放してやれ。」
なぜか山岡の言葉には威厳があり、言う通りにしてしまう。
圭介は手を離し、井上の胸元から降りた。壁にもたれるようにして座り込み、深くため息をついた。
「一体、どういう事なんです。」
圭介が聞くと、山岡は続けた。
「川端エレクトロニックスは知っているな?」
川端エレクトロニックス。知っているも何も、小笠原貿易と契約している中流企業だった。これから日本の電子機器界で活躍する見込みのある会社だ。
「この井上は元々そこの社員でな。まぁ、聞く話によると、大橋、お前みたいなもんだ。」
「どういう意味ですか。」
いつの間にか起き上がっていた井上が乱れた襟を正しながら答えた。
「まともな会社だと思って入社したけど、正体はもうボロボロ。情報機関さ。」
圭介は耳を疑った。川端エレクトロニックスが情報機関だったとは、寝耳に水だ。だとしたら、小笠原貿易と提携したのは情報機関として動く互いを認識しての事だったのか。
「まぁ、今となってはこのクラブで働く唯の平社員だけどね。」
「こいつが転がり込んできたときはぶったまげたな。」
山岡が懐かしそうな声をだした。
「まぁ、それはいいんだけどさ。それで、先月、君の元上司?の木村さんって人から連絡があった訳よ。」
「え、木村さんが?」
「そう。木村さん。その時に知ったんだよ。君たちの命が危ないってこと。」
いつの間にか圭介は話にのめり込んでいた。体を少し前に乗り出したら、安心したように井上が続けた。
「それで、誠也さんがどうしてもって言うから、僕がこの作戦を立てたのさ。」
山岡がビールを手に戻ってきた。
「運命と言うか、偶然と言うか、そういった事は不思議なもんでな。こいつがその小笠原貿易っつー所に親父がいるって言うもんだからな。そりゃもう、こいつに力を借りるしかない、と思ってな。頼んだのさ。最初は最も拒絶されたがな。」
「それは、まぁ。父とは縁を切っていた仲だったし。」
圭介の方に顔を向け、井上は続けた。
「それで、一か八か、父に連絡した。そしたらすんなり協力してくれたのさ。大橋には死なれたくないって言ってね。だから、言っとくけど父は僕たちの仲間だよ。」
あの白髪のオールバックを思い出した。井上さんも知っていたのか。全てを。
胸が熱くなり、自然と涙が込み上げて来た。井上さんは自分のために会社を裏切ったというのか。
涙をこらえながら圭介は井上に続きを促した。
「それで、まずは作戦を早めに立ててロンドンに戻らないとね。奥さんも危ないからね。」
ハッとした。真美の存在が大きすぎて妻の事を忘れかけていた。一家の暗殺、つまり妻である千恵子もその対象の一人だったのだ。焦って井上に聞いた。
「どうすればいいんだ。真美は大丈夫なのか?」
「だから、まずは作戦だよ。真美さんは、ちゃんと保護してあるから大丈夫だよ。ちなみに最初に送ったあのビデオレターもハッタリだからね。ああ、そう言えばロンドン・アイなんてのも実在する組織じゃないから。」
すらすらと井上が喋るのを聞きながら、圭介はある面で拍子抜けをしていた。今まで心配して来た事が全て虚構であった。その反面、恐ろしい恐怖感を覚えた。何より、一家の命がこのままでは危なかったのだ。一番安全と思っていた場所が一番危険だった。
まるで知らないうちに敵陣に迷い込んでしまった兵士のようだ。
ハッとして圭介は井上に質問した。
「じゃあ、ジャイルズは?」
時が止まったかのように静かになった。やがて、井上が決心したように体を引き、正座をした。すると、地面に頭を大げさに下げた。
「申し訳ございません!ジャイルズさんは、本当に知らずに殺してしまった。」
圭介は肩を落とした。じゃ、ジャイルズは死んでしまったのか。一瞬だが抱いた希望に圭介は限りない絶望感を感じた。
「まさか、彼が来るとは思わなかったんだろう。僕の仲間の一人が殺してしまった。」
「ああ。もういいよ。」
圭介は俯きながら静かに言った。場の空気をただすように、山岡が言い放った。
「木村をここに呼んで、明日の朝一の便、四人でロンドンに直行だ。分かったな、大橋。」
俯いていた圭介は顔を上げた。
「え、木村さんも来るんですか?」
「ああ。木村も一緒だ。あいつこそ重要だろう。」
「でも、会社は?」
「戻る気はないらしい。」