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私のやんごとなき王子様

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「小日向!」

 爽やかな声に呼び止められ、私は財布を握り締めたまま何気なく振り向いた。

「風名君?」

 私を呼んだのは風名君で、手を振りながらこちらへやって来た。
 驚く私の隣に並ぶと、相変わらずの爽やかな笑顔をくれた。

「購買行く所?」
「あ、うん。今日はお弁当作らなかったから」
「俺も今日弁当じゃないんだ。一緒に行ってもいい?」
「もちろん、いいけど……」

 お弁当なんて持って来なくても、風名君のファンの子が毎日のように差し入れを持って来るから困らないだろう。と思ったけど、さすがに嫌味っぽいから言うのは控えた。
 それに風名君はお弁当の差し入れはもらわないのだ。
 芸能界の仕事が不規則だから、学校にいる間は学生として親の作ったお弁当を食べたいかららしいと、さなぎがどこかから仕入れた情報を教えてくれたのを覚えている。

 でも――
 隣で素敵な笑顔を浮かべる風名君と並んで歩く私を、廊下ですれ違う女の子達が刺すような目で見ているのがコワイ。
 今朝亜里沙様に声をかけられた時と同じような心境だ。

 人気者の隣を歩くためには、ある程度のスキルが求められる。
 家柄、容姿、成績……。
 残念ながらこの星越学園の生徒にあって、いわゆる一般家庭の普通の女の子。
 見た目も普通なら家柄も普通。親が外交官や政治家でもなければ社長でもなんでもない、普通のサラリーマンの子どもなのだ。
 進学校としても有名な学園に私が入れたのは奨学金がもらえたから。
 隣りを歩く風名君のご両親はどちらも芸能関係のお仕事をしていて、お母さんは現在でも有名な女優だ。

 はあ。
 またため息。今日はため息を吐いてばかりだな。
 でも私なんかと一緒に歩いていたら、風名君の名前の傷がつきそうなんだもん。
 購買までの道のりが果てしなく遠くに感じていると、風名君がクスリと笑った。

「俺と一緒に歩くの、嫌だった?」

 私が考えていた事が伝わったのか、苦笑する風名君に私はううんと首を振る。

「違うの、嫌とかじゃなくって、何て言うか……あ! そういえば、風名君って劇の主役だったよね?」

 話を無理やり逸らしたにもかかわらず、風名君は気にする風でもなく答えてくれた。