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イン・ザ・クローゼット

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 ウサギ耳の出してくれたランプを頼りに本を開くと、シャルロットとルイーゼはなるほどお城にいるらしい。「王子様のお嫁さんになるのはあたしー!」だの「ちがーう、あたしだもん!」だのと、聞いているだけで(実際にはアレットは「見て」いたのだけれど)頭が痛くなりそうな言い合いをしている。これは早く行かないと、どちらかひとりくらいは王子様と本当に結婚してしまいそうだ。
「お城にはどうしたら行けるのかしら。行き方を知りませんか?」
 アレットがこまって首をかしげると、ウサギ耳はぱたぱたと何度かまばたきをした。
「お城に? 行くのかい? ものすごく遠いよ」
「でも行かなくちゃ。あの子たち、たぶんちょっと冒険のつもりで来ただけだと思うんです――そのくせそういう時って、帰り道とかなぁんにも知らないんだから! あの、本当にお城に行く方法、わかりませんか?」
 ウサギ耳はやれやれとひとつため息をついてから、お芝居の役者のように深々とおじぎをして、ご案内しますよ、お嬢さんと器用にウインクをしてみせた。そうすると、ウサギ耳はちょっとだけかっこよく見えた。
「僕はお城は慣れてるんだ――そう、とてもね! 汽車に乗ると早いんだよ、お嬢さん」
「でもわたし、お金を持ってません!」
 汽車になんて乗れないわ、とアレットがうつむきそうになると、ウサギ耳はそんな顔をしないでとあわてて手をふった。さっきガラスびんを出した方とは反対側のポケットをさぐって、今度は黒と白のチェック柄をしたチケットを二枚出してみせる。そうしてウサギ耳は一枚をアレットに差しだした。
「僕からのプレゼントだよ、お嬢さん。言っただろう、僕はお城は慣れてるって」
 チケットを見てみると、そこには「ひとつめの鉄橋駅→お城」と書かれていた。ひっくり返すと、「特急列車。各駅には止まりません」と書いてある。なんだかものすごく高そうなチケット、とアレットは思ったし、こんなものをもらうのは悪いんじゃないかしらとも思ったけれど、前にパパが人のくれるものはなんでももらっておきなさい、と言っていたことを思い出して、素直にありがとうとお礼を言った。
「お礼はけっこうだよ、お嬢さん。その代わりに、僕も一緒に行ってもかまわないかな」
「そんなこと、全然かまわないわ。それにあなたはお城に慣れてるんでしょう、案内してくださるとうれしいわ」
 ウサギ耳はうれしそうににっこり笑って、ついでに耳もひょこんとゆらして、それじゃあ一緒に行こうかとアレットの手をうやうやしく取った。
「駅までは遠いのかしら」
「なんてことはないよ――ほんのひとっ跳びだね。しっかり僕の手をにぎってるんだよ、お嬢さん!」
 ウサギ耳は力いっぱい地面を蹴って、ひとつめの鉄橋駅に向かって跳んだ。

作品名:イン・ザ・クローゼット 作家名:みらい