ゆめくい
×××
「お前が自分から来るなんて珍しいじゃあないか、獏」
しかも、そんな『一般人』の格好をして。
警察署のソファに堂々と座るその神経もまた図太く、お前自分が『始末屋(殺し屋)』で警察側からしたら喉から手が出るほど捕まえたい奴なのだと言う自覚は何処に置いてきた、と問いたくなるほどだ。私からすれば、彼奴が捕まるのは些か惜しいものがあるのだが。
報酬の封筒を差し出せばその中からごそっと札束を抜き取って獏は銜えた煙草を揺らした。紫煙が天井まで立ち上る。
「今回は随分後味が悪かったんですヨ。それに、かなり面倒だったモンで」
「ほお。お前でもそう感じることがあるのか」
茶化すように笑ってやれば弓なりに唇が吊りあがる。本当不気味な奴だよお前は。カイとの繋がりがなければ私だって絶対に近付きたくない部類だ。そも、何故彼奴がカイ――いや、遠野の血に興味を示すのか。遠野は確かに奇異しい一族だ。血に酔い、血に狂う、別の人格とバトルロワイヤルを繰り返す実に珍しい一族。だからと言って危害を加えるのは身内だけで、他者にはまったく関係のないそれこそ絵空事。けれど獏は云う。「遠野の一族で一番危険なのはあの男だヨ」と、カイを指差しながら。それが何故かまでを追求できるほど、私たちは仲良し子好しではない。
「じゃあ七割、イタダキマス」
「好きにしろ。処理はお前に任せてあるからな」
きっとカイは文句を言うだろうが、そんなことはこの男に言え。そうだな、手向けとして贈るならば「気に入られたお前が悪いんだよ」か。
ゆめくい / 10.02.01