御伽噺と薔薇の華
洗練為れた其の弓矢の腕は未だ衰える事無く村を率いている。
生け贄として神官に差し出された少女の行方を知る者は誰一人として居ないのに、
残酷な運命を悲嘆し俗世から逃げるだけの王子を我々は守っている。
何故、
お姫様を救い出すお伽話さえも今の世には無意味な物に成り下がっている事が何よりの証拠。
剣術を学び会得する為に幾度と無く肉を裂き鮮血を浴びた。。
其れが何だったのかさえ解らなく成る程に伝説の剣を握り締め目の前の肉塊を砕き火を放つ。
是の未完成な身体を途切れる事無く打ち続ける天からの恵みが涙を隠した。
雷鳴は苦痛に歪む表情と有らん限りの叫び声を爆音と共に消し去ってしまう。
最期、
是の者の瞳に映ったのは稲妻の後光を纏いし屈強な戦士だっただろうか。
きっと、
見果てぬ其の瞳には流しては成らない純粋な雫が有った違いない。
溢すまいと、
流して成るものかと、
己の貧弱な闘志と共に涙腺を引き締めたに違いない。
もう少し、
あと10年、
ゆっくり産まれて来るんだったと、
荒がえ無い運命を呪っては、
愛しい人に捧げた其の柔らかな唇を噛み締めたのだ。