御伽噺と薔薇の華
担架に乗せられた女には既に息等無かった。
白い白い長い指が今まさに動き出すかの如くはみ出した腕と供に揺れている。
運び出す鍛え抜かれた男は二人、
其々愛しき者の明日を見ているか熟睡する為に今晩の酒のつまみを何に為ようかを考えている。
死した同胞は生前に比べて幾分か軽く成るようだ。
其の姿に生者の纏う正気等、
此れっぽっちも感じなかった。
其の死者と生者の無言の葛藤を見て居た傍観者達は双方へと同情の念を送る。
女に毒を盛った男は独り、
監獄の中で重罪者の刻印を其の背中に焼き付けて、
幸せに過ごして居た日々のなんと儚い事かを実感する。
奴婢は主との禁じられた恋を苦痛とは思わなかった。
其れは逢わざる事と永久の別れに伴う苦しみを知っていたからだ。
遠くから偲ぶ想い馳せて見つめているだけで彼等は幸せだったに違いない。
我々の様に、
醜き嫉妬で愛する方を黄泉の国へ案内するような事を実行しようものなら、
其の生命供に棄てるに決まっている。
何故、
こんなにも醜く卑しいのですか。
定めは、
信実とは、
赦す寛大な情は、
いつまでも、
見守る虚は。