アドール
全開にした両開きの窓から射し込んでくる白い太陽光が直線を描き、彼女の纏うドレスの裾を一層鮮やかに染め上げた。きらきらと反射する光の粒が虹彩を刺激する。泣かなかったのが奇跡だと思った。
「綺麗」
「ありがとう」
交わした言葉は簡単だった。だけどそこにはお互いの、表し切れない感情が溢れ返っていたはずだ。
待ち遠しかったこの日、愛する彼女はもういない。
だけど、彼女の代わりにその白いドレスを着て、僕の隣にいてくれる人が存在する。そんな事実があるだけで、もう充分だと思えた。
「きっと、姉さんも喜んでる」
「……そうだといいんだけど」
「貴方がそんな顔する必要ない、これは、私の言い出したことだから」
決然とした表情で彼女は言う。思い詰めたような顔に、少しの期待を混ぜたような。
そういえば、あの夜もこんな様子で僕の部屋を訪ねてきたな、と思いだす。足取りは慎重で、口調もなんだか重たかったのに、その目だけは、何かを訴えかけてくるような、射抜く目だった。