私の主張
「…あ」
嫌な夢をみた。
愛染ちゃんの作文の夢だ。
(なんだってこんな暑い朝に…)
僕は頭を振って布団をけとばした。
カビたような汗の臭いが巻き上がる。
むわわーっ
(うおう…我ながら気色悪い)
僕は汗でへなへなしたティーシャツを無理矢理はがすようにして脱ぎ、上半身裸になって蛇口へゆらゆらと歩いていった。
うちには風呂がないので普段は銭湯へ行く。…が、しかし今は銭湯へ行く元気すらなかった。
一つはこの暑さのせい、もう一つは…昨日愛染ちゃんに会ったせいだ。
きゅっと蛇口を捻り勢いよく水をだす。頭からだばばーっとその生ぬるい水を受け取った。
(ぬるい…)
なぜだ。なんでこんなぬるいんだ。
畜生!どいつもこいつも僕を熱中症にする気か。
ごぼっ
途端に水道から奇怪な音が鳴り響いた。僕は焦って水道を撫でる。
「ごめん!ごめんよ君は素晴らしいよ!!水だよ!君はれっきとした水だ!!」
僕の叫びも虚しく水道はぼぐぼくと嫌な音をして止まった。
僕は絶望して倒れこんだ。
ちなみに故障ではない。
止められたのだ。
金なくて。
なんたるこった!
この夏エアコンも扇風機も生ぬるい水もなしでどうやって生き残るんだ?
どうやって…
僕は足でそこらのものをけっ飛ばした。
そしてうわぁぁぁとのたうちまわる。
「金ーーーー!!!!」
「金、ほしいの?」
汚い部屋に寝転んで暴れる僕にもそろそろ死期が近付いてきたようだ。
愛染ちゃんそっくりの天使が見える。
なかなか天国も良さそうなところだ。
偽愛染天使は長い黒髪を鬱陶しそうに後ろにやって、僕の襟ぐりをつかんだ。
ひどい。
ひどい天使。
「起きろ前田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
そして10回ほど往復ビンタをされた。
僕は朦朧とする意識のなか偽愛染天使に必死に話しかけていた。
「…ちがっ…欲じゃ…なくて……願望…なん…です…」
偽愛染天使は「意味わからん!はっきり話せ」とさらにビンタをするのだった。