私の主張
「…ここだ。」
鈴木はおもむろに立ち止まった。
僕はびっくりたまげてまたも転びそうになった。
…なぜならそこは大学寮だったからだ。
「…ここ?」
「ここ。」
不に落ちない顔の僕を引きずり、鈴木は手慣れた様子で僕をサークルへと連れていく。
周りにいた人間は皆鈴木と知り合いらしく、
「あれ?もしかしてそれ新しいサークルメンバー?でかっ」
などと聞いてくる。
まったくそんなにでかくないぞ。うっかり母のDNAが身長に関してのみ色濃くでちゃっただけだ。
その証拠に父は身長も運も心構えも豆の様に小さい。
…ちなみに残念ながら僕のDNAは身長に関するもの以外全て父のDNAが組み込まれてしまったようだった。
…気をとり直して、ずるずると僕を引きずり続ける鈴木に話かけてみた。
「なんだこいつら皆サークル仲間なのか?」
「いや、ただ単に部長が有名だから。」
鈴木はそのままサクサクと歩いていく。
それにしてもぼろい寮だ。廃屋の様だ。
でも僕のアパートよりはマシだった。
実は貧乏になったあと僕はアパートを移っていた。その新たな僕の城は今しも崩れ落ちそうな妖怪アパートのようなアパートなのだった。
…それでも、それなのに寮で暮らした方が安いのだ。
なんと寮ならば食費光熱費込で月18000円ほどしかかからない。
…ただしむさくるしく4人部屋なのだが。
じゃあなぜ今でもそのアパート(家賃のみで15000円)に住んでるのかというともう引っ越し費用がないからなのだった…。
「ここだ。」
鈴木はおもむろにあるドアの前で止まった。そのドアのナンバープレートの部分には上からおにぎりの切り紙が貼られている。
なんだかあからさまな感じだ。
…僕がふむふむと観察していると、突如鈴木がさも嫌そうな声で叫んだ。
僕は何事じゃーっと後ずさる。
「にっくっまっきっ」
「おにぎり!」
…ちなみに「おにぎり!」は、ドアの向こう側から発せられた声である。
僕は鈴木が発狂したのかと思った。
なので自分に害が及ばぬよういつでも逃げれるポーズでスタンバった。
「どうぞ。」
しかし今まさに逃げようとしていたのに、中から聞き覚えのある柔らかな声がして僕は引き留められてしまった。
横で立つ鈴木をちらりと見ると、妙に真面目くさった不機嫌そうな顔をしている。
少し開いたドアから、もう一度優しい声が響いた。
「鈴木くん、ちゃんと連れてきてくれたわよね?」
鈴木は不機嫌な声で答える。
「もちろんだ…夢ちゃん。」
…ギイッと嫌な音をたてこ汚いドアが開く。
ドアのすぐ先に、うっすらと浮かびあがる二つのシルエット。
体は固まったかのように上手く動かない。
僕は青信号みたいなポーズのまま首を捻るという大変な体勢をしていたというのに、決してドアから目を離すことはできなかった。
「お久しぶり、春君。」
そこには、にっこりと笑う名も知らぬいつかの勤労美少女と、おにぎりの面を被った怪しげな人間が立っていた。