私の主張
いざ、入部
僕は次の日自分の決心を鈴木に伝えにいった。
鈴木はなぜか一瞬こわばった顔をし、そして次に安堵したような顔をし、最終的にはなんでもない顔になった。
…それから彼は満足げに呟いた。
「そうかそうか。それはよかった。」
「おう。僕こそ。」
今日の鈴木は紺色の生地に裾と袖に朱色のラインが入った半袖のシャツを着ている。
細いからだが一層細く見えるデザインだったが、爽やかなのでむしろよく似合っている。
かくいう僕はどこにでもありそーなグレーのシャツにジーンズといういでだちだった。
…鈴木は気さくに話を続ける。
近頃の彼は機嫌がよいらしく、一時垣い間見てしまったことのある、超・ネガティブシンキング性質は消え去ったようだ。
あの頃の鈴木はとても暗かったなぁと過去に思いをはせる。
「今じゃこんなに爽やかになって…」
と言ったら怪訝な顔をされた。
鈴木は軽く鞄をかけなおし、再び口を開いた。
「チームは俺と同じでいいか?チームコアラって言うんだけど、実は部長も所属してんだよねー。」
「ええっ」
僕が突然叫び声をあげたので鈴木に睨まれた。
鈴木はあまり目立つ行動を好まないようだ。
僕はすまんすまんと謝った。
「なんなんだよ。…あ、ひとつ言っとくけど同じチームの夢ちゃんには手をだすなよ?部長の支配下にあるからうっかり手をだしたらどうなることか…。」
鈴木は言いながらも身悶えする。
どうやら何か恐ろしい記憶を思い出してしまったようだ。
しかし幸運なことに僕は夢ちゃんとかいうひとには興味がなかった。
…僕は未だ小刻に震えている鈴木にさりげなく尋ねた。
「その部長ってさ…どんなひと?」
鈴木は一瞬怪訝な顔をする。
ちなみに単なる好奇心、とかではない。
金!
…つまり僕は金が欲しいのである。
なんだサイテーとか思われても構わない。
金を!
くれとは言わないから…せめて貸して!
僕はドキドキと答えを待った。
…鈴木は首を捻り、口を開いた。
「…実は顔見たことないんだよね。」
「ええっ…あ、すまん。」
鈴木はじろりと僕をにらむ。
またやってしまったー。
でも幸いすぐに機嫌を直してくれたみたいだ。よかった。
「…ま、いいや。…いやさ、実は部長ってなぜかいつもおにぎりのおめんかぶってるんだよ。夢ちゃんですら素顔は見たことないみたいなんだよな。…すんごい不細工かすんごい美人か、一時期話題になったこともあったけど…それらしい人物は誰も大学内で見たことないんだ。もしかして部外者かって話も出たくらい。…でもなんでだ?」
僕はむにゃむにゃと誤魔化す。
冗談にも金貸して欲しいからなんて言えないのである。