Tの目
わたしは他の人々の承認を受け、その場で二代目社長を引き受けた。しかしわたしは企業経営などほとんど知らぬ人間であったから、何事もTのしたとおりにするが良いだろうと考え、彼の生前の経営方法や人材運用法をことごとく真似た。わたしは長年Tをごく近くで見ていたために、そのくらいのことはできた。
結局はその考えがよかったのだろう、Tの会社は大きな発展もしなかったが、凋落することもなかった。わたしはTの会社を守った。
Tは常々、「君は公平な男だ」と言ってわたしを褒めたが、やはりわたしには過ぎた言葉であるように思える。そのような言葉は、彼にこそふさわしいのである。
わたしはTが死んで、ようやく彼に対しての神へと戻ることができたようである。