ひとつの恋のカタチ
「なに? 真里ちゃん……」
「あ、亜由美ちゃん。あれ……」
真里が指差す方向には、一人の男性が立っていた。
「……も、森さん!」
そう言って、亜由美が立ち上がる。そこには亜由美と遠距離恋愛中の、森誠司がいた。真里も知っている、元はアルバイトの先輩だ。実家の仕事を手伝うために、亜由美とは遠距離恋愛となっていた。今は、年に数回しか会えない間柄だが、二人の関係は続いている。
「おお、なんか、感動的な再会みたいだな」
一番のお調子者である、佳代子の彼氏・山下が言ったことで、一同は笑った。
「亜由美ちゃんの、遠距離恋愛中の彼氏」
森に駆け寄る亜由美を見つめながら、真里が一同に説明した。
「本当に、森さん?」
駆け寄った亜由美は、確かめるように森を見つめる。
「うん。驚かせようと思ってね。今日はバイトがあるって、知ってたからさ」
森は亜由美に、優しい笑顔を向けている。泣きそうな亜由美だったが、森の顔を見て微笑み返す。
「紹介します! 私と遠距離恋愛中の、森さんでーす」
亜由美は森の手を取って、一同に紹介した。一同は拍手をする。
「なんか、すごいことになってきたなあ」
「どうぞ、どうぞ。飲みましょうよ」
知っている者も知らない者も、関係なしに会話が弾む。同性異性に関係なく、さまざまな話でも盛り上がる一同は、恋愛や学校、仕事、さては結婚についてまで、議論を重ねるように、話が尽きることはなかった。
「……僕は?」
みんなで盛り上がりながらも、一人だけ独り身の広樹が、心の中で泣きながら、自問自答を繰り返す。そんな広樹に、天から声が聞こえた気がした。
(君の恋は現在進行形……君には未来があるのです)
納得のいかない広樹だったが、この楽しげな宴の中で、そんな寂しさも吹き飛ぶ。
天の言葉は空耳だったということにして、広樹はそれぞれが恋人や異性ということを忘れたこの輪の中で、自分も話を弾ませるのだった。
人は出逢いと別れを繰り返し、人を愛することをやめない。誰の物語も、ひとりひとりが波乱万丈。それでも最後にはきっと、ハッピーエンド……のはず。
あれも、これも、ひとつの恋のカタチ。
中島佳代子──山下亮輔
互いに高校一年生の時に知り合い、付き合い始める。佳代子は、山下の軽さと馬鹿さ加減に呆れながらも、結果的に同じ大学へ進学。卒業と同時に結婚し、二人の子供をもうける。山下は中小企業に勤め、佳代子も小さな事務所で働いた。二人目が生まれてからは、佳代子の実家へ移り住み、佳代子は家庭に入りながら、近くの事務所でパートをしている。
佐々木奈美──三田貴広
幼稚園からの幼馴染みであり、中学三年生にして付き合い始め、大学は別々ながらも、奈美はバスケットボール選手として期待されている三田のサポートを怠らない。就職後、生活のすれ違いから会わない日が続き、別の人生を歩むこととなる。しかし、互いの子供同士が仲良くなり、交流は続けている。
二見美沙──高島健太郎
中学時代に、先輩後輩として知り合い、美沙が中学三年生の時に付き合い始める。文学好きの二人のデートは至って静かだが、静かに愛を育んできた。その結果、出来ちゃった結婚には違いないが、二人は若くして結婚に至る。子供はその一人のみ。高島は大学卒業後、出版社で働きながら、物書きを続けている。
小林冴子──小安克人
中学時代に、先輩後輩として知り合い、冴子が高校一年生になると同時に付き合い始める。冴子は大学進学とともに水泳を止め、卒業して保育士となる。小安は水泳で、オリンピックを目指し始める。そんな小安が有名になり、会えない日々が続くと、二人は自然消滅となったが、その後に何度かくっついたりする。二人は結婚こそしないが、いつまでも付かず離れず、寄り添っている。
竹脇亜由美──森誠司
同じアルバイト仲間として、亜由美が高校一年生の時に付き合い始める。森は付き合ってすぐに名古屋の実家へ帰ったため、遠距離恋愛になる。その後、何度かすれ違いはあったものの、その度に森が会いに来て、元のさやに戻っている。亜由美が大学卒業後は、森の実家へ転がり込み、家業を手伝っている。後に結婚し、子供が一人生まれる。
浅沼真里──中山修一
高校時代の同級生で、一年生の時に付き合い始める。学者を目指す中山は、大学卒業と同時に海外の大学へ通うこととなる。そのため、すれ違いが生じたものの、数年後、中山の帰国とともに、二人はもう一度付き合い始める。後に結婚するが、子供はいない。
石川理恵──諸星鷹緒
理恵が鷹緒を追いかけてモデルになったことで、理恵が十五歳の時に付き合い始める。それから二年後に結婚。しかし、生活のずれからすれ違いが生じ、数年後に離婚に至る。後に職場が一緒になるが、結婚の事実を知る人も少ないため、お互いに割り切っている。後にお互い別の人と結婚し、別の人生を歩んでいる。
木村広樹──中島聡子
アルバイト仲間として知り合う。知り合って十数年後(現在進行形だが)、広樹はたびたび、離婚してフリーとなった聡子を食事などへ誘うようになり、聡子の娘とも仲良くなり始める。聡子の妹夫婦である、佳代子と山下とも打ち解け、家族ぐるみの付き合いにまで発展している。奥手な広樹なので、時間はかかりそうだが、恋が結ばれる日は近いかもしれない。
──みんなそれぞれ、ひとつの恋のカタチ。