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ひとつの恋のカタチ

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「じゃあ、近くのファミレスでも行かない? 友達がチーフやってるんだ。だから何ってことはないんだけどさ」
 冴子の言葉に、一同が乗る。
「いいんじゃない、ファミレス。なんでもあるじゃん」
「じゃあ行こう」
 一同は、近くのファミリーレストランへと向かっていった。

 一同の目当てのファミリーレストランでは、時間帯のチーフとして働いている、大学生の竹脇亜由美が、忙しそうに動いていた。
「おつかれさま」
 そんな亜由美に声を掛けたのは、浅沼真里。亜由美とは、このファミリーレストランで働く同期であり、同じ年である。高校一年生の時から働いている二人は、時間帯チーフを任されるまでになっていた。
「ああ、真里ちゃん。今日はもう終わりか。彼氏君もいるしね」
 からかうように、亜由美が言う。
 ファミリーレストランのとある席には、一人の男性が教科書を開いて勉強している。高校時代から付き合っている、真里の彼氏の中山修一だ。
 中山は、真里がアルバイトで働いている日には、ここに来て勉強をしている。そして真里がアルバイトの時間を終えると、合流して食事をしたりするのが日課となっていた。
「早く行ってあげなよ。ああ、私もあと一時間で終わりだ。頑張ろうっと」
「うん。じゃあ、お先に失礼します」
 真里はそう言って、中山のもとへと向かっていった。中山は変わらず勉強をしながら、真里と楽しそうに話し始める。
 その時、店に数人の男女が入ってきた。ドアが開く音に、無意識に顔を上げた真里は、思わず席を立つ。
「石川さん!」
 思わず真里が叫ぶ。そこには、真里の高校時代の友達である、石川理恵がいた。理恵も驚いている。
「浅沼さん?」
「やっぱり、石川さん!」
 駆け寄った真里は、店の入口付近で理恵の手を取り、懐かしがった。
 理恵は高校一年生の時に、事情があって学校を辞めていた。そのため、真里とは短い付き合いだったが、お互いに励まし合った仲である。また、すぐにモデルとして活躍を始めた理恵を、真里は今もファンとして見守っている一人だ。
「知り合い?」
 理恵の側にいた男性が尋ねる。
「あ、うん。高校の時のクラスメイトの浅沼さん。あ、私の旦那の鷹緒と、友達のヒロさんです」
 理恵がお互いに紹介する。理恵の言葉に、真里は驚いた。
「旦那って、もしかして……」
「ああ、うん……結婚したんだ。もう三年くらい経つかな」
 少し照れながら話す理恵に、真里も嬉しそうに笑った。
「へえ! そうなんだ」
「理恵。話すのはいいけどさ、席行こうよ」
 理恵の夫である、鷹緒が促す。
「あ、うん。浅沼さん、誰かと一緒? よかったら、一緒にお茶でもしない?」
 理恵が真里に言う。
「ありがとう。あ、覚えてるかな? 一緒のクラスだった中山と付き合ってて……今、一緒なんだ」
「嘘!」
 今度は、理恵が驚いた。一同は、とりあえず席へと向かっていく。
「本当だ、中山君」
 理恵が、中山を見てそう言った。
「え、石川?」
 勉強に夢中で事態に気付かずにいた中山が、驚いて理恵を見つめつつ、真里に説明を促す。
「うん、偶然。石川さん、結婚したんだって」
「マジ?」
 中山は驚きながら、近くに座った一同を見る。鷹緒がそれに気付いて軽く会釈をしたので、中山は勉強を止め、理恵のグループへと入っていった。
「石川さんの活躍は知ってたよ。有名雑誌にいくつも出てるんだもん。ずっと応援してたし、私も勇気づけられてたんだよ」
 理恵に向かって、真里が言う。その横で、中山も頷いた。
「うん。真里から聞いた時はびっくりしたけど、雑誌見た時は、本当に驚いたよ」
「あはは。ありがとう……ごめんね、連絡出来なくて」
 照れながらも、静かに理恵がそう答えた。
「ううん。離れてても活躍は知ってたもん。でも、まさか結婚してるとは思わなかったけど」
 真里の言葉に、一同が笑う。
「こいつらの関係は、ごく一部の人間しか知らなくて、秘密なんですよ。こういう世界って、いろんな関係があって面倒なんです」
 理恵と鷹緒の友達である、広樹が言った。
「ええ。でも、幸せそうならいいな。私たちはまだ大学生で、勉強とか就職活動しかないから」
 真里が言う。
 一同はすぐに打ち解け、お互いの近況を話し合った。
「冴子!」
 そこに、入口のほうでそんな声が聞こえた。見ると、仕事中の亜由美が、やって来た団体客に向かってはしゃいだようにしている。
「あれ? 佳代子ちゃんだ」
 そんな時、広樹もそう言った。
「え、誰?」
 鷹緒が尋ねる。
「聡子さんの妹だよ。前に何度か会ったことある」
「へえ。聡子さんの……」
 聡子とは、広樹の初恋ともいえるべき女性で、鷹緒と広樹が働いている写真スタジオに、以前働いていた女性であった。結婚退職したので、広樹の恋は実っていない。
「佳代子ちゃん」
 広樹は思い切って、入口でもたついているグループに声をかける。グループは、先程まで居酒屋に居た、奈美たちのグループである。
「あ、確か、お姉ちゃんの……」
 そこに、佳代子が広樹に近付いて言った。
「覚えててくれた? 三崎スタジオの、木村広樹です」
 広樹が挨拶をする。
「ええ、覚えてます。何度かお姉ちゃんのこと、送ってくれてましたよね」
 佳代子も自分を覚えていてくれたということに、広樹は嬉しそうに笑う。そして、一番聞きたいことを切り出した。
「うん。聡子さんは、その後どう? 全然連絡取ってないから、気になってたんだ」
 真っ直ぐな広樹の言葉に、佳代子は笑った。
「主婦してますよ。娘が生まれて。忙しいらしくて、私はあんまり会わないんですけどね」
「へえ、そうなんだ……」
 聡子の近況を知って、広樹は少し安心していた。
「こんばんは。お久しぶりです、覚えてます?」
 そこに、真里に向かって声をかけたのは、中学時代に亜由美と同じ水泳部に所属していた、亜由美の友達の冴子であった。
 冴子は、真里のことを以前から亜由美に聞いており、何度もこのファミリーレストランに来たことがあるので、真里とも面識がある。
「もちろん、覚えてますよ。冴子ちゃん」
 真里が、笑って答える。
「よかった。私たち、飲み会開いてたんですけど、よかったら一緒にどうですか?」
「そうそう。どうせだったら、もっと大勢のほうが楽しいし。みなさんも一緒に!」
「もうすでに、当初の人数より増えてるし」
 冴子を先頭に、奈美と美沙が声をかけた。酔った勢いもあり、もっと大勢で楽しくやりたいと思っていた。
「いいんじゃない?」
 そう言ったのは、理恵だ。
「じゃあ……盛り上がっちゃおうか? あんまり人もいないし、奥の個室っぽいスペースなら、騒いでもまあ大丈夫だし」
 真里の言葉に、一同は笑って立ち上がり、大人数の席へと向かっていった。
「お邪魔しまーす!」
 そこへやって来たのは、このファミリーレストランでアルバイトを終えたばかりの、亜由美である。
「いらっしゃい! ファミレスなのに、長居しそうでごめんなさい、チーフ」
 冴子が言う。
「大丈夫。店長の許しも得たから。でも、必要以上に騒ぐと、追い出されるからね」
「はーい」
 一同は笑った。
 その時、真里が、隣にやって来た亜由美の体を揺り動かす。