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ひとつの恋のカタチ

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 今日は広樹たちと飲むために、聡子の娘が実家に預けられているというので、実家に住んでいるという聡子の妹にも、必然的に今日の事情は知られているのだろう。
 佳代子が、広樹を見てお辞儀をする。
「あれ? 前にお会いしたこと、ありますか……?」
 佳代子の言葉に、広樹は頷いた。
「覚えてますか? 木村広樹といいます。もう十数年前ですけど、何度か……」
「そうそう、広樹さん! 覚えてます。お姉ちゃんを何度か送ってくれましたよね。私のことも覚えてます? 妹の佳代子です」
「うん、もちろん。久しぶりです」
 広樹と佳代子が笑い合う。数えるほどしか面識はないが、お互いに覚えていたので、盛り上がった。
「あ、旦那の亮輔です。もしかして広樹さん、お姉ちゃんと付き合ってるんですか?」
 突然、一緒に居た夫を紹介しながら、佳代子が冗談交じりで広樹に言う。
 彼氏なのかと尋ねられ、広樹が言葉を失っている間に、聡子が口を挟んだ。
「なに言ってるのよ。突然失礼なんだから……ごめんなさいね、広樹君」
 聡子の言葉に苦笑して、広樹は首を振る。
「いえ。いいんです」
「違うのか……ごめんなさい。でも子供も大きくなってるんだし、お姉ちゃんにも彼氏の一人でも出来るといいなって思ってたんですけど……」
「あはは……僕はただ、友達に誘われて聡子さんに会って、たまたま送ることになっただけの男だから……」
 広樹が静かにそう言った。謙遜も入っていたが、聡子への気持ちを自分で否定したようで、胸が痛んだ。
「でも、もう帰っちゃうんですか? もう少し、二人だけでゆっくりしても……」
 続けて言う佳代子の言葉に、聡子はうんざりした様子で、恥ずかしさで紅くなっている。
「佳代子、もうやめろって。お姉さんも困ってるだろ。お邪魔しちゃってすみません。じゃあ俺たち、お先に失礼しますんで……どうぞ、ごゆっくり」
 佳代子の夫である亮輔は、佳代子を制止させると、意味あり気な言葉を広樹と聡子に投げかけて、佳代子とともに去っていった。
「まったく、あの二人ったら失礼なんだから……ごめんね、広樹君」
 去って行く二人を見つめながら、すまなそうに聡子が言った。
「いいですよ。妹さん夫婦、面白いですね。そうか、佳代子ちゃん、確か僕より年下だったと思うけど、もうご結婚なさったんですね……」
 困り果てた様子の聡子に、広樹が笑顔で言う。
「ええ……学生時代から付き合ってて、結婚して。仲の良いのはいいけれど、いつまでも恋人気分でいるから、周りは大変なのよ」
 そう言って、聡子は苦笑する。
 二人はまた駅へと歩き出す。すると、すぐに駅が見えてきた。広樹は名残惜しい気分に駆られながらも、引き止める言葉は何も言えなかった。
「今日はありがとう、広樹君……久々に会えて本当に楽しかったわ。諸星君にも、よろしく伝えてね」
 その時、聡子がそう言ったので、広樹も頷いた。
「はい……こちらこそ、急なのに時間を作ってくださって、ありがとうございました。あの……また連絡させて頂いてもいいですか?」
 改まって広樹が尋ねた。相変わらず、不器用な自分が情けなく思える。
「ええ、もちろん」
 広樹の思いに反して、聡子は軽く頷いた。そんな聡子の態度に、広樹も嬉しさを噛み締めるように笑う。
「じゃあ近々、連絡させて頂きます。また一緒に飲みましょう。今度は、ご家族揃ってでも……」
「ええ、ぜひ。ありがとう……じゃあ、おやすみなさい」
 聡子はそう言うと、改札へと向かっていった。
「気をつけて……おやすみなさい」
 そっとそう言い、広樹は見えなくなるまで聡子を見送ると、自宅に帰るため、別の路線の駅へと向かっていった。
 広樹は聡子と再会し、新しい何かが始まる予感を感じていた。

 数日後。広樹は、事務所で写真を広げている、鷹緒のもとへと向かう。
「鷹緒。今度の週末、飲まないか?」
 突然切り出した広樹に、鷹緒は広樹を見つめる。
「……俺をダシに、聡子さん誘おうって魂胆か?」
 鋭い鷹緒の言葉に、広樹は照れながら笑う。
「アハハハハ……」
「アハハじゃねえよ。一端の大人なんだから、デートの誘いくらい一人でしろよ。あれだけお膳立てしてやっただろ」
「まあ、そう言うなよ。娘さんとか、妹さん夫婦も呼びたいんだ。だから、鷹緒と何人かでさ……」
 広樹の言葉に、鷹緒も苦笑する。
「おまえ、散々俺の恋路にとやかく言ってきた割には、自分の恋愛に関しては丸っきり駄目だな」
「おまえなあ……」
「まあいいよ。俺もおまえには世話になってるし、こんな面白い機会、滅多にないからな。沙織も呼んでいいの?」
 鷹緒が尋ねる。
「ああ、もちろん。年も近いから、娘さんとも気が合うんじゃないのかな」
「……了解。うまく使われてる気がするけど」
 呆れるように言いながらも、鷹緒は笑って広樹を見つめた。
「頑張れよ」
 鷹緒の言葉に、広樹も笑う。
「頑張るよ」
 いつになく、広樹も真剣な顔をして言った。
 時が止まっていた想いが、大人になって、また動き出す。周りの環境は違うけれど、想いは同じ……。

 男だって恋をする。少年が大人になっても、初恋は消えないまま……ひとつの恋のカタチ。