少女機械人形コーパス 第一幕
やがて、そこで生きていた生物の死骸で川が真っ白に染まる頃、川から海へとその侵食は進み、地球全土を腐敗が襲った。
それはこの星に暮らすありとあらゆる生命が、瞬間的に腐敗してゆく地獄。
人類がその原因を突き止めたのは、総人口のおよそ3分の2が死亡した頃だった。
依然として大地に深く突き刺さったままの『巨大なヒト』…。
いや、それは『ヒトのかたちをした悪魔』だった。
大地に深く突き刺さった『悪魔』の恐らくは両脚部であろう部位から、血管のような管が伸び、大地に根を張り地中を侵食する。
そしてその管は『悪魔』の体内に流れていたのであろう体液を、直接この母なる大地へと注ぎ込んでいたのだった。
まさにその体液は地球への毒、というに相応しい代物だった。
それでありながら、この地球上のどの場所にもありはしない未知の毒液。
抗体を手に入れようにも、『悪魔』に近付く者には腐敗あるのみ。
人類に対抗する術はなく、唯一出来た抵抗は腐敗の届かない地中に逃げる事だけであった。
自動掘削装置が働き、地底都市を建設する間にも人口の減少が止まる事は無かった。
それでも運良く生き残った者達は、完成された地底都市で無機質な鉄の壁に囲まれ人工物を食し生きる事となる。
西暦2048年。
人類が為すすべもなく、この異形の悪魔の行為に畏怖しながら、
陽の光から遠ざかってから実に4年。
政府の研究チームの1人である『茅野修』が無謀にも地上へと昇り、この悪魔の細胞の一部を採取する事に成功する。
茅野はこの悪魔にヴィロネカートと名付け、その細胞の研究に没頭した。
西暦2054年。
茅野がヴィロネカートと接触してから、実に6年の月日が経った頃……。
茅野修とその助手・野柳章司、そしてこの研究チームのリーダーであった池峰宗一郎は、ヴィロネカートの細胞から『対ヴィロネカート殲滅用巨大人型決戦兵器デーケルターレ』の生成及び開発に成功。
ここに池峰を総司令とし『ヴィロネカート掃討政府組織コーパス』が結成される。
最初の襲来から実に10年。
今もなお大地に突き刺さり続けている『ヒトのかたちをした悪魔』は、地下深くへと逃げ込んだ人類への墓標のように佇んでいた。
作品名:少女機械人形コーパス 第一幕 作家名:有馬音文