少女機械人形コーパス 第一幕
巳上
「当時8歳の私は、毎日毎日神様にお祈りしたわ。明日は気が狂えますように。それがダメなら私も腐敗しますようにって」
ジョエル
「………」
巳上
「でも、そんな日は来なかった。
私は毎日自我を保ったまま、腐敗を目に焼き付けるだけ……。程なく地底都市の建設が始まって、人々は地上を捨て我先にと避難して行った。
……でも私は地底になんか行きたくなかった。父や母や姉の眠るあの大地にいたかった。いつかきっと私も腐敗して、みんなの元へ還れるって……そう信じてた」
ジョエル
「………っ」
巳上
「でもね、そうは行かなかった。
京介が無理やり私を担ぎ上げて、このマヌスに連れてきちゃったから」
左文字
「涼子の妹であるお前を、見捨てる事なんて出来なかった。たとえお前が死を望んでいたとしても」
巳上
「……最初はね、恨んだわ。なんで京介は私をこんな地底に引っ張るの? って。私は地上で死にたいのに――って。
でも京介は言ったの『お前が死んだら涼子の事も健二の事も語り合える人間がいなくなる。生きていた記憶さえ薄れていく。……そんなの寂しいじゃねぇか』って」
左文字
「俺、そんな事言ったか?」
巳上
「言ったのよ。私はそれを聞いて生きようと思った……。
――生きて。生きて、お姉ちゃんや健二くんの事をいっぱい話そうと思った。まだ京介の知らないお姉ちゃんを沢山沢山聞かせようって、そう思ったの。」
左文字
「8歳のお前がよく耐えてきたと思うよ。
……お前は小さな手で俺の手を握り締めながら、涼子が俺を呼ぶように『きょーすけ、きょーすけ』って……よく懐いてくれたよ、ホント。俺みたいな男、恨まれて当前なのにな」
巳上
「私は今の自分が好きよ。生きている、今の私が」
左文字
「よう子……」
巳上
「ジョエル。あなたにもきっとある筈なの。……守りたいものが」
ジョエル
「守りたいもの……」
作品名:少女機械人形コーパス 第一幕 作家名:有馬音文