インビンシブル<Invincible.#1-2(1)>
それまで”贋作”の足止めをしておけとな。
さっきの二人みたく蚊トンボのようにあっけなく落とされたら、
おケツ100叩きの刑だと言ってやれ」
「了解であります」
思わず脱力しそうになるやりとりだが、この男の場合は本気だ。
茶目っ気たっぷりに嬉々として鞭棒で部下のケツをひっぱたくだろう。
「ロベスクとガザは、”ネッタメント”に帰ってきているのだろう?
”贋作”との交戦データを解析に回しておけよ」
「ガザは手当が終わり次第、任務に復帰させます。
…残念ながら、ロベスクは帰還してはおりません」
”帰還していない”。
この一語で察しがついた。
男はため息をついて、目頭をつまんで目を閉じた。
「フーん、そうか…。惜しいことだ。
所で、工廠のデータバンクには進入出来たか」
「はい。メインフレームに侵入はできました」
「引っかかる言い方だな。モノはあったのか?」
「いいえ、残念ながら。ここには、”オリジナル”の
在りかに関する情報は何一つありません。
”贋作”のデータに関しては削除された痕跡が見られます」
それを聞いて、男は「ふむ、そうだろうな」と肩をすくめて、
「上役の一人でも捕まえて聞き出せればよかったのだろうが、
ここに入った頃にはもぬけの殻ときたものだ。
施設内のMSSMを使って逃げおおせたか?まぁ、いい。
”贋作”を捕らえれば何かしらは判るだろうさ。
では、ここは任せたぞテュクス大尉。
私は、スパイン・ザックで相手をしてくる」
そう言って男は、オフィスの出口へと向かって歩き出した。
「はっ、了解であります」
テュクスはぴしりと敬礼し、男の後姿を見送った。
変わり者で、”プッツン”した発言と素行の悪さで
知られるこの男---ハリー・スタッベンだが、指揮官として作戦実行能力の
高さには定評があり、組織---オンブラヌェーボの重鎮からは高い評価を得ている。
それを見出されての今回の起用だった。
ハリーにとって、今回の任務は久々の”チャンス”でもあった。
上司曰く、平時では日陰者扱いされている、彼の所属する組織だが、
これを契機に結果を出す働きを見せれば上層部の組織に対する認識も
変わるし、諜報部にばかりつぎ込まれて実働隊に対しては、削減一辺倒だった
予算も見直されるはずだという。
だが、ハリーにとって、そんな政治的で俗的な事情はどうでもよく、
自身の欲求を満たすことができればそれで構わなかった。
彼にとって、戦闘こそが”目的”で、それに至るあらゆる
プロセスはただの手段でしかなかったからだ。
to be next 1-2(2)
作品名:インビンシブル<Invincible.#1-2(1)> 作家名:ミムロ コトナリ