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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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インビンシブル<Invincible.#1-2(1)>

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Invincible<インビンシブル>

 空を仰いだあの日の思い出は煌き
 
  あの日空を翔んだ少年のはなし

見上げた空は近いところにあって

 手を伸ばしたら届きそうなほど近く

でもそれは幻想で若い勘違いだった

 折れた心では空をとぶことはできず

後悔の色でカレンダーを塗りつぶす日々

 だけど切っ掛けはささいなこと

あくる日一つのチャンスがめぐってきた

 自分を信じ心を奮い立たせ勇気持ち

速く高く遠く飛びあの日の自分との別れ

 空を翔んだあの日の思い出は煌き

あの日空を駆けた少年のはなし

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 西暦22世紀初頭、地球。
地球人類は、空想の産物であった空間跳躍移動---
いわゆるワープ技術を実用化に至らせ、
宇宙へとその生活圏を拡充させていた。
 
 ワームホールゲートを利用した
”多重並行空間跳躍移動”(MSSM<エムエスツーエム>)。
過去において机上の空論であったそれは、一人の奇才の出現により格段に
研究が進み、実現できるものと立証された。
 奇才を擁する研究機関は主要国家のバックアップを受け、
ワープターミナルを開発。
ターミナルを管理運営するMSJS公団が、国際共同出資のもと創設された。
 地球人類はMSJS公団が運営するMSSMワープサービスにより、
新たな安住の地を求め宇宙へとその生活圏を伸ばしていった。

 イレギュラーというものはどこにでも潜んでいる。
人間そのものがイレギュラーを内包した存在なのだから、
創造したものにイレギュラーがつきまとうのは当然ともいえる。
 この世界は実に脆い。一つの”歪み”が全体の破綻に
つながることも往々としてある。
その”歪み”を矯正することこそが、人類の使命であり
矜持なのかもしれない。

 宇宙開拓時代の黎明期は、その”歪み”と対決することを宿命づけられた。
人の世の”歪み”。
その深淵の底は計り知れない。

 MSJS公団が創設初期に打ち上げた探査船が、
ある一つの惑星を発見した。
その星の名は”インパルス”。
空に覆われた、蒼の星だった。
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#1-2 

-サゴン海峡 ウォルターナー諸島-
<森林地帯>

(グアマ天文台標準時0904)

 森林生い茂る島の一角、一機のARが樹木によりかかり
鎮座している姿があった。
土砂を被り、蔦が絡み木枝に埋もれ、一見すると、
二度と動くことすら適わない廃棄品<スクラップ>に
思えるほど薄汚れた体たらくだったが、排気ダクトから
もれる熱気が、そのARが”生きている”ということを証明していた。

 機体に乗り込み、コックピットシートに座ったレオは、
コンソールを操作した。
戦闘前に、操作周りのインターフェイスの確認と設定をしたかったからだ。
簡易ではあるが、自分の趣向に合うよう、機体の最適化を行う。
「動作アルゴリズムパターンをAに設定。リンク及び
センサーマネジメントをサブに移行。オペレート及び、
火気管制はメインに一任」
「イエス、ユーハブコントロール。ところで、レオ。
”空が読めない”って本当なの?」
頭ひとつ上のコパイシートで、端末を操作しているリフォ・アイリールが、
作業の傍ら聞いてきた。
「うん、昔ちょっと事故に遭って以来ね。
リフレクション・スノーの同調が得られないんだ。
だから、リフォには空を読んで欲しいんだ」
 大気中のリフレクションスノーとのリンクをリフォに
任せたのはそれが理由だった。
いずれはその理由を語りたい所だが、今は戦って行き延びるほうが先決だ。
詳しい理由を話すには、今は時間が足らなさすぎる。
「…なるほどね。わかった、そういうことなら任せておいて。
敵機相対距離4600。くるよ」
「了解。状況開始」
 リフレクションホイール、起動。
全長16メートル、総重量25トンの機体が、
風に吹かれた羽毛のようにふわりと浮いた。
アルヴェードは宙に浮いたまま、確かめるように足を一歩だし、空を”踏みしめた”。
”足場”の具合が確かなのを確認し、足を後ろに蹴った。
そうすると、まるで氷上を滑るスケート選手のように
アルヴェードは空を滑り始めた。
 AR(AirRider)は文字通り、空を走り、滑り、駆ける人型機動兵器。
自由に縦横無尽に空を駆け巡る。
 ARをスケーターと例えるならば、空はさしずめ演技の舞台であるアイスリンク。
アルヴェードが滑った後をリフレクションスノーが線を引いてなぞり、
空に白銀の尾が紡がれた。

 前方から迫る敵機をセンサーが捉えた。
工廠を襲撃したと思われる所属不明の黒いARが二機。
顔に当たる部分が胴体部に埋まっており、テナガザルのように
長い手が特徴的なARだった。
”テナガザル”達は、両手を気流にたなびかせたまま空を滑走している。
『敵AR2機、左右に散開。距離4100』
「了解。敵機捕捉、エンゲージ」
 CGによる補正処理を施された敵機の姿が、オールビューモニターに映りこんだ。
目に映る敵の姿を認めてから、レオはこれが実戦なのだということを認識した。
そう意識したとたん、言えも知れえぬ恐怖と不安に駆られた。
(ああは言ったものの、やれるのか?だけど…)
やるしかない。
自分がやらなければ、誰がリフォと祖父を守るというのだ。
お前だろう、レオ・キスキンス。
それが今の自分の役回りだ。
 (覚悟を決めたろ)
緊張で小刻みに震える手で、レオはコントロールアームを握り
武装トリガーを押し込んだ。
 操作に呼応して、アルヴェードは腰部背面のハードポイントに
マウントされた二振りのビームブレイドを引き抜き、それぞれの手に携えた。
 スロットル最大。速度が一気に跳ね上がり、機体が音速の世界へと突入する。
速度を上げつつ、こちらから見て右側の敵機へと詰め寄り、仕掛けにいく。
 互いに相対距離を縮めているこの状況、瞬く間に距離計の数値が減算していく。
相互の距離が縮まるにつれて、緊張が全身に伝っていく。
 3500・・・2000・・・1000・・・。
下腹部にきりきりと痛みが走る。喉がちりちりと渇く。
全身から汗が滲む。焦点が定まらない。感覚が持っていかれそうだ。
 こちらの急速な接近に危機を感じたのか、テナガザルの一機が
ビームライフルを撃ち放ってきた。
大気を切り裂き突き進むビームの光軸が轟音とともに
機体の脇を通り抜けていった。
コックピットごしにその振動を感じた瞬間、レオは全身が総毛立った。
 ビーム一発の被弾で、AAはいとも容易く破壊され、人は消し炭になって跡形もなく消える。
人に死をもたらすものが、こんなにも身近に、こんなにも簡単にボタン一つで扱える。
それが、当たり前の場所。
 今まで、死とは縁遠い環境で、社会に保護され暮らしていた自分には、
自身が死ぬことなど遠い将来のことで、
実感の沸かないことだった。
だけど、ここでは当たり前に起こりうる。
死が誰にでも平等に、当然に降り掛かる場所。