空を探しに
カナリヤの声が僕を励ます。機械仕掛けのその鳥は、大きくなる光を目指して僕の少し前を飛んだ。眼の前を流れていく一枚の羽が導いてくれるような気がした。父さんが手を引いてくれるような気すら、した。
後ろからの弾丸が足元の岩を砕き、腕を掠めていく。それでも僕は走った。止まったら駄目だと分かっていたから、必死に走った。
浴びたら死んでしまうとばかり言われていた光を目指して、走った。
「もう一息!」
カナリヤがそういう。僕は転がるように、眼を差す光に飛び込んだ。追手は来ない。来れないだろう、光を浴びたら死んでしまう。
身体がふわりと優しい熱に包まれるのを、僕は感じた。柔らかな緑が靴をなくした僕の足を包んでくれた。カナリヤが、高らかに勝利を謳う。僕の肩には血が滲んでいるし、息も上がっているけれど。
「空だ……!」
見上げたそれは写真よりもっとずっと綺麗な青だった。光り輝く太陽の光はカナリヤの言う通り、驚くほどに暖かいだけだった。
空が、青かった。僕は、空を見たのだ。手を伸ばして、叫んだ。
「空だ!青空だ、大空だ!」
振り向けば灰色のシェルターは緑と青に包まれた周囲から孤立していて、自分の世界の小ささを僕は実感する。
カナリヤが僕の肩に戻ってくる。足の疲れも総て吹き飛んでいた。まだ、走れる。もっと走れる。空まで走れる。そんな気がした。
「あの国までもう少しだ!行こう!」
「ああ、行こう!」
僕らは走る。僕だけじゃない、母さんや兄さんや姉さん、あの先生やお医者様にも空を見せる
ために走る。
父さんのために、走る。なぜなら、僕は、そう。
「僕の名前は空だ!あの空と同じ、空なんだ!」
【空を、探しに。】