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小さな国のお姫様と大きな国の兵士の物語。

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末姫




海風の吹く小さな国。
なだらかな山肌と、少しの平らな土地。
わずかな領地の変わりに発展した水上都市は見事なものだ。
網目状に橋が広がる街の中央に、白磁の城が築かれ
他国のように防壁や砲台は設置されていない。
王は優しく、豊かな財政、穏やかな気候、流れる季節も色美しい。
長らく戦争も無く民も王を慕っていた。
小さかったが平和な国だった。
誰もが暖かい食事をすることができ、寝る場所があった。
隣の者と家族のように接せられた。陽気に歌い笑える国。

 この国の王には7人の娘がおり、末娘以外はみな他国へ嫁いだ。
小さな国を守るための政略結婚であったが
娘たちは一言も不平を口にすることなく、笑顔で父へ別れの挨拶をした。
祝いの席が終わると決まって王は、すまない幸せになっておくれと泣いた。

 やがて1人残った姫は16になり、美しく育った。
姫の名はフィノア。
すこし癖のあるとび色の長い髪を結い上げ綺麗なうなじをしていた。
すらりと伸びた手足、ぴんと伸びた背筋。
澄んだ川底を思わせる瞳はガラス玉のように輝く。
なだらかな白い頬は柔らかく笑みを作り、無邪気な笑顔は回りを和ませた。
父は酒に酔うと亡き妻の目に似ていると誉めた。
年老いた目に涙がうっすらと浮かんだ。

 華やかさを称えられることの多いフィノアだったが
今は目を伏せ静寂の中、窓際にたたずんでいた。
ガラスごしの空を少し見上げ再び目線を手元に戻す。
机の上には白い封筒が一つ置かれていた。
しばし凝視し、フィノアの指がそっと表面を撫でてゆく。
どこにでも売っているような質素もの、裏の印も無い。
差出人名は無かったがフィノアには誰から届いたものかわかっていた。
窓から差しこんでくる午後の日差しが体を包んでいたが
震える指先は冷えていく気がした。
ふと窓の外に顔を上げると数羽の小鳥の影が過ぎ去る。
城内の静かさが心を侵食していくようだった。