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VARIANTAS ACT 16 心のありか

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 病室のベッドに備え付けられた小さなテーブルに公文書用の封筒を置いた。
「私から心なしかのプレゼント」
 私は封筒を開けて中に入っている書類を見た。
 一瞬、目を疑った。
 それは紛れも無く…
「…サンヘドリンへの推薦状」
「もちろん、使うかどうかは君次第だけど」
 局長が静かに微笑む。
「友人からの報せでね、近くサンヘドリンは軍備を再編成するみたい。その中に重機動歩兵の再編計画が有ってね、それに君を…と思って」
「…罪滅ぼしのつもりですか?」
「ん?」
「局長は全て分かっていたんですよね、最後にはこうなるって」
「分かってた訳じゃなくてあくまでも想定の範囲内でね」
「一緒です」
「あら、手厳しい」
「局長」
「はい?」
「あなたは私達を“力”と呼びましたね。なら、私達の意思は…」
「君は、彼らファントムの詩の最後の一節を知っているかい?」
「え…?」
「曰く、『故に汝らは感謝せよ、未だ人である事を感謝せよ』。この詩はね、彼らの行軍歌でもあり、最後まで人であろうとする詩でもある。そう、君も同じ。君は彼を人として見て、そして、人として愛した。君は、彼らの意思を理解した」
 局長は懐から小さな紙の箱を取り出した。
「彼から君へのプレゼント。開けて見てみるといい」
 私は貰った紙箱を開けた。
 入っていたのは小さなメダル。
 交差する二つの矢とその間に立つ大剣のレリーフ。
「零番教導の…」
「彼もね、結局は人なんだ。その証拠に、彼には力がある。きっとね、君の心は彼の中にある。人であろうとする事と君の心を守ろうとする意思が、彼の力。なら、彼の心はどこに有るんだろうね」

 私を照らすまばゆい朝日を浴びて手の中できらりと光るメダル。
 零番教導の卒業記念に貰う筈のそのメダルを、教官は私にくれた。
 私はメダルをにぎりしめて、膝を抱く。
 違う…、こんな物の為じゃない。私は…
「ジーナ…」
 エレミアが、出窓の私に気付いて目を覚ました。
「ごめん、起こしちゃった?」
「ううん…」
 エレミアが眠たそうな目を擦る。
「ずっと起きてたの?」
「うん…」
「だめよ、病み上がりなんだからしっかり寝なきゃ」
 私は窓の外を見ながら、エレミアに問うた。
「ねえ、エレミア」
「なぁに…」
「好きなのに好きって言えない気持ちって分かる?」
 エレミアは暫くの沈黙を置いて、
「…うん」
「え?」
「ぎゅって胸が痛くなって、苦しくなる。いつも見送ってばかりで、すれ違いがち。だから、実は嫌いなんじゃないかなぁって思っても、本当は大好き。そんな感じ」
 エレミアはそう言って、少し悲しげに微笑んだ。
「エレミア」
 次の瞬間、私は思わずエレミアに抱き着いていた。
「ど、どうしたの…?」
「ねぇ、エレミア。私の事好き?」
「え…!?」
「ねぇ」
「…好き」
「ホントに?」
「好き…大好き!!」
「よかった…」
 私はエレミアを抱きしめて、彼女の頬に二回キスした後、推薦状を破いて捨てた。
 私はもしかすると、一世一代のチャンスを棒に振ったのかもしれないけど、これは私の断固たる意思の表明。そして、彼への返答…
 私は、新たな道を歩み出した。
 もう、後には戻れない。


[ACT 16]終