小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

VARIANTAS ACT14 この娘凶暴につき

INDEX|5ページ/19ページ|

次のページ前のページ
 

Captur 2



「えーっとつまり…誰かさんが、サンヘドリンの武器を横流ししていて、それを捜査するためにここに来た…と言う訳ですか?」
 一刃は歩きながらユリアに尋ねた。
「そう…しかも一味はかなりの人数が居る…一人では無理なんだ」
「なるほ…あ…」
 一刃が足を止める。
「どうした…?」
「大佐との待ち合わせ場所…」
「…が、どうした?」
「知っているの春雪なんですよ…」
 ユリアの目が点になる。
「…は?」
「僕は彼女に任せっきりで…最低ですよね…はは…」
 ユリアは髪をくしゃくしゃと掻いて、少し考え込んだ。
「(こいつ…とんだ役立たずだ!でも入り込むにはこいつの持ってる書類が要る…。どうすりゃ…)」
「僕…彼女が居なきゃ何も出来ないんです…」
「ん?」
「彼女が居なきゃ身の回りの事だってろくに出来ない…。機体の操縦だって彼女のサポートが無きゃ…」
 ユリアが一刃に一枚の板ガムを差し出した。
「落ち込んだ時は甘い物。それにそんなの今時普通だろ?」
「ユリアさん…」
「お前家族は?」
「祖父と姉…それと春雪だけです」
「両親は?」
「母はいません…。僕が殺したんです」
 ユリアの表情が凍り付いた。
「昔、僕が小さいとき、僕を庇って…」
「なぁ一刃…あんたに昔何があったかなんてあたしには解らないけどさ、過去ばかりを見ていても、先には進めないよ。前を見て、しっかり自分の足で歩くんだ。そうすりゃ、前に進めるよ」
 再び歩みを進める二人。
 しばらく歩き、ふと気付けば、軍施設へ続く進入ゲートが目の前にあった。
「ね?」
 頷く一刃。
 彼は、鞄の中から例の推薦状を取り出した。




************




「いててて…」
 イオがビンセントの頭に包帯を巻く。
「大丈夫ですか…?」
「こんな不運は初めてだぜ…」
「本当に病院へ行かなくてもいいんですか?」
「これくらい屁でもねえよ」
 そういいながら目が泳いでる。
「本当に…?」
「大丈夫!」
 ビンセントはそう言って車のキーを持った。

 宿舎の地下駐車場に行く。
 そこでビンセントは叫び声を上げた。
「なんじゃこりゃああ!」
 車の横腹を走る長い線。
 塗装を削ったような深い傷が刻まれている。
「こいつぁ…10円パンチ!」
「10円パンチ…?」
「大昔に“ニッポン”って国で流行った悪質な悪戯だ…! 21世紀には絶滅したと思ってたが、まさか今でも生き残ってたぁ驚きだぜ…」
「あのビンセント…時間…」
「そうだった!」
 車に乗り込む二人。
 キーを差し込み、イグニッションを回す。
「すまねぇイオ…運転頼むわ…安全運転で」
「了解しました」
 二人を乗せた車は、ゆっくり出庫していった。




************




 二人組の保安員の一人に、一刃は推薦状を手渡した。
「菊地一刃に…イクサミコの春雪…持ち物はこれで全部ですか?」
 バッグ二つ。
「ええ。そうです」
 一刃は固い笑顔で答える。
「それじゃあそちらが春雪さん?」
「は、はい!そうです」
 固い返事。
「そうですか? 春雪さん」
「え、ええ。そうです!ね?ご、ご主人様…」
 明らかに怪しい。
 一人の保安員がユリアに言った。
「それじゃあ春雪さん。バージョンと製造ナンバーを」
「え?」
「ですから、バージョンと製造ナンバーを」
 ユリアの顔面から冷や汗が吹き出た。
「え、えっとですから…」
 もう一人の保安員が応援を呼んだのか、二人の背後にはさらに3人の保安員が近付いてくる。
「バージョンと製造ナンバーを!」
 一人の保安員が、銃に手を掛ける。それを見たユリアが、突然叫んだ。
「い、一味だ!」
 固まる一同。
「え?」
「こいつらも一味だ! 一刃!」
「こいつ!」
 一刃の側にいた保安員が銃を抜いた。
 その瞬間、一刃の表情が変わる。
 彼は後ろにいた保安員の一人から警棒を抜き取り、流れるように素早く、目にも留まらない速さで3人のあごと脇腹を打ち、倒す。
「動くな!」
 銃口を向ける保安員。
 一刃は銃を持つ保安員の拳を正面から左手で掴み、捻る。
 そして右手で保安員の肘付近を掴み、素早く足を払った。
 宙を舞う保安員の身体。
 彼はそのまま保安員を放り投げ、持っていた特殊警棒で腹を打った。
 その間わずか数秒。
「こいつ! 抵抗する…」
 彼は、銃を向けるもう一人の保安員へ素早く接近し、左手で銃を持った両手を逸らす。
 そして左腕の脇から肩の上へ警棒を差し入れ、逸らした両手を一気に引き戻しながら、警棒をテコのように持ち上げた。
 保安員の左肩が、鈍い音と共に脱臼する。
 悲痛な叫び声をあげる保安員。
 一刃はそのまま警棒で保安員の脇腹を叩き、気を失わせる。
 唖然とするユリア。
 思わず呟く。
「バカ強…」
 一刃が叫ぶ。
「ユリアさん!早く!」
「あ、ああ!」
 ユリアがゲートを開ける。
 その時、肩を外された保安員が、力を振り絞って非常ベルを叩いた。
 鳴り響く非常ベル。
「開いた! 行くよ!」
「はい!」
 二人は荷物を持って急いでゲートをくぐった。
「待て! 止まれ!」
 後ろから、急遽駆け付けて来た保安員の制止する声が響く。
 ユリアは急いで振り返り、懐から抜き取った愛銃を連射。
「早く閉めろ!」
 保安員達は、物影に隠れながらユリアに応戦。
 ゲートの目の前には、激しい銃撃戦が展開した。
 閉まる扉。
 保安員が、無線で声を張り上げる。
「緊急事態!軍施設に侵入者あり!所属は不明!侵入者は若い男女二名!一名は銃器を所持!繰り返す!銃器を所持!」
 警報は直ぐさま軍施設全館に鳴り響いた。
 彼らの居る部屋にも、警報は鳴り響いている。
「侵入者…!? まさかこんな時に?」
「やはり、な…」
 ゆっくり呟くグラム。
「大佐」
「放っておけ、エステル。何もするな」
 ため息をつくエステル。
「大佐…騒ぎを楽しまれていませんか?」
「そうかも…な」
 グラムはそう言ってから、少し笑った。


「どうしよう…!大変な事になっちゃいましたよ!?」
「うっさい!今は逃げるのが先!」
 一番保安員を倒しておきながら、うろたえる一刃を一喝しながら、ユリアは銃の弾を入れ換えた。
「そこ右!」
 ユリアの指示に従い、一刃はエレベーターに乗り込んだ。続いてユリアも。
「何階行きます?」
「適当!20階!」
 20階のボタンを押す。
 動き出すエレベーター。
「ねえ…あの人達って本当に一味だったんですか?」
「あ?」
「そうには見えなかったんですけど…?」
「今更何言ってんだよ!」
 怒鳴り付けるユリア。
 内心、背中に冷や汗をかいたのは言うまでもない。
 エレベーターが止まる。
「よし、行くよ!」
 二人はエレベーターを急いで下り、再び走りだした。
「いたぞ!」
 後ろから、ライフルで武装した保安員達が追い掛けてくる。
 するとユリアは、バッグの中から紙製のボールを取り出した。
「何ですか? それ」
「見てな」
 彼女は、ボールから伸びる細い紐にライターで火を点け、後ろに放った。
 青ざめる一刃。
「それってまさか爆…!」
 後方で、爆音が散った。