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VARIANTAS ACT14 この娘凶暴につき

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 少女の身体が地面に落ち、たたき付けられる音。
 骨の砕ける音。
 いくら走っても、腕を延ばしても、手が届かない。
 喉の奥から押し出される、声にならない叫び声。
 彼の足元から、まるで生きているかのように湧き上がる焔。
 焔は彼の身体を包み込み、肉を焼き、骨を焼き、そして…


「…ビンセント!」
 イオがビンセントの肩を揺らす。
「うぅぁ…」
「起きてください! ビンセント!」
「お前…生きて…」
 ビンセントは、イオの顔を見るやいきなり、イオの身体を強く抱きしめ自分の胸へ引き寄せた。
「きゃっ! 何するんです!?」
「んー…よしよし…」
「ふやぁ!?」
 イオの頭を撫で回すビンセント。
 次の瞬間、部屋の中に渇いた破裂音が響いた。
「えひゃい!!」
 意味不明な叫びを上げながら、ビンセントがベッドから落ちる。
「い、い、い、いきなり何をするんですか! こちらにも心の準備と言う物が…」
 イオは自分の服の襟を直しながら、ベッドの横でひっくり返っているビンセントを睨み付けた。
「OK、イオ…一発で目が醒めたぜ」
 彼は起き上がって、頭を左右に振る。
「うなされてましたよ」
「あ?」
 心配そうなイオ。
「悪い夢でも見られましたか?」
「ああ、ちょっとな…」
 手の平で、額の汗を拭う。
「ところでよ、イオ?」
「はい?」
「今何時?」
「11:30です」
「げぇ!」
 彼はクローゼットからズボンと上着を急いで引っ張り出した。
「なんでもっと早く言わねぇんだ!」
「私は何度も起こしました!それなのにビンセントが…」
「昨日は飲み過ぎたんだよ!」
 突然、上着のボタンが取れた。
「畜生! こんな時に!」
 クローゼットを閉める。
 クローゼットの扉が外れて倒れ、頭にぶつかった。
「はぎっ!!」
「ビンセント!」
 頭を摩る。
「建て付けが悪いぞ! コンチクショウ!」
 立ち上がってブーツを履く。
 靴紐を締めている途中、靴紐が切れた。
「ぬおー! やってらんねぇ!」
「落ち着いて下さい! ビンセント! 不運が続く事もたまにはありますって!」
「不運過ぎるだろうがぁ!」
 ビンセントは心の中で叫ぶ。
「(俺今日死ぬかもしんない!)」
 その時、クローゼット上段に設けられた天袋から、鉄のダンベルが転がり落ちて、彼の頭を直撃した。
「ぱびゅあ!!」
 再び意味不明な叫び声を上げてのびるビンセント。
「きゃあああ! ビンセント! しっかりして下さい!」
 半ベソをかきながら叫ぶイオ。
 普通死ぬ。




************




「ダメだ、ユリアさん…。見つからないよ…」
 ベンチに座り、彼は思わず疲れ切った声と共にため息を漏らしていた。
 横にいる軍服の女…と言うより少女は、合わせた手の平を唇の前に置き、彼の言葉を聞いてか聞かずか、静かに物思いに耽っている。
「(まずいな…これじゃぁいつになっても埒があかない…。こいつは一向に相手を見つけられないし、かと言って保安部に行かれても困る…。もっと直接的な方法で入り込まないと…)」
「ユリアさん」
「あ?」
「やっぱり保安部の人に捜してもらった方が…」
「ちょっ!、ちょっと待て待て!」
 慌てるユリア。
 彼女は決心を決めるように大きく息を吐いた。
「一刃…、実は隠していた事が有るんだよ…」
「え?」
「あたし、本当は軍人じゃないんだ…実はあたし…」
「実は…?」
「実は…」
「実はっ…!?」
「治安局の秘密エージェントなんだ!」
 一刃の全身に衝撃が走る。
「な、な、何ですってー!?」
「黙っていてすまない…本当はある極秘任務の為、ミラーズ大佐に会いに来たんだ。君の協力がいる。その為に、君の春雪君には先に行ってもらっていたんだ」
「そ、そうだったんですか…」
 ユリアは心の中でほくそ笑む。
「(こいつ信じてるよ…!)」
 一刃は彼女に言った。
「それじゃあ春雪は大佐の所にいるんですね?」
「ああ!」
「それじゃあ早く行きましょう!あなたも任務があるのでしょう?僕は何をすれば?」
「そ、そうだな…。大佐の所まで案内してくれ。なるべく内密にな」
「分かりました!任せて下さい!」
 心の中で、腹を抱えるユリア。
「(も、もう駄目…転げ回りたい!)」
 声を出して笑いたい衝動を押さえ込み、ユリアは彼に言った。
「少しここで待っていてくれ。この格好では目立つからな」
「わかりました!」
 素直に返事を返す一刃を尻目に、ユリアは女子トイレの中に入り、個室に篭った。
 軍服を脱ぎ、バッグの中から新しい洋服を取り出す。
 目立たない地味な色のミニスカートに、Yシャツを合わせ、その上からガンスリングを掛ける。
 大きく息をつく。
 バッグの底板、中が空洞になった特殊な擬装用収納箱から、金属の部品を取り出す。
 彼女はそれを、あっという間に組み立て、再び銃としての形を取り戻し、弾を装填する。
「行くよ」
 彼女はそう言って、ホルスターの中に自分の愛銃をしまい、ジャケットを羽織った。
「すまん、待たせたな」
 トイレから出て来たユリアを見て、開口一番で一刃が言った。
「あれ?」
 ユリアが聞き返す。
「な、なんだ?」
「以前にどこかでお会いしませんでしたっけ?」
「いや…?」
「ですよね…」
 彼女は怪訝な表情で、彼を見つめた。
「(頼むよ…?あんたが頼りなんだから…)」




************





 風が吹き、緑の草を撫でる。
 空には月と太陽が一緒に廻り、雲が泳いでいる。
「春雪…」
「エステルさん…」
 青いそよ風。
「ここは…?」
「ここは基底現実ではないわ…。勝手に入ってごめんなさい。私は今、あなたの最深層領域にいるの」
「そうでした。私また倒れたんですね…」
「あなたの中を見て解ったわ…。あなたと一刃さんは、イクサミコとユーザーと言うより、家族に近いのね…」
「家族…」
「姉と弟…兄と妹…。そして、夫と妻…。強いて言うなら、そんな感じかしら」
「エステルさん…私はいつまで彼と共に出来るのでしょうか…」
 春雪の頬を、涼しい風が撫でる。
「何故…そんな事考えるの…?」
「彼は人間の男性です。自尊心と自立心があります。いつかは人間の女性に恋をして、家庭を築き、自分の人生を歩みたいと思っている筈です。私は彼の身の回りの事を全て行って来ました。本当は兵器の部品だと言うのに…。それが嬉しくて…楽しくて…。私はいつまで彼と一緒にいれるのでしょうか?」
 大きな雲の塊が、二人の頭上を過ぎる。
「私たちイクサミコは、人間に従うように造られているわ…。でもそれは相対的な意味で。私達はイクサミコとしてこの世に生を受け、ユーザーと出会い、暮らし、その責務を全うする。これは人も同じ筈よ…」
「私達は人間ではありません」
「人でなくても、息をして、鼓動を刻み、温かい肌を持ち、人と触れ合える躯があるなら…まして、自分で考え行動することが出来るなら、私達は…」
 緑の草原が、金色の野原に変わっていく。
「イクサミコは人を愛するようには作られていない…愛は、プログラムでは無いのだから。あなたの生きたいように生きなさい。愛は、人を縛る物ではないわ…」