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VARIANTAS ACT14 この娘凶暴につき

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Captur 1




 試射場に太い咆哮が響き、人の形を模したシューティングターゲットが貫かれる。
 少女は拳銃のシリンダーをスライドさせ、空になった薬莢を地面に捨てた。
 スレンダーな少女には、あまりにも不釣り合いな大型の拳銃。
 スタームルガー・スーパーレッドホーク454カスールバージョンスペシャルカスタムモデル。
「OK、ちゃんと直ってる」
 彼女は防音用の耳当てを外し、後ろにいる老婆にそう言った。
「本当に行くのかい? 偽のIDまで手に入れて…」
「偽じゃないよ。ルートは非合法だけど、中身は本物だよ」
 老婆がため息をつく。
「それにあんた…なんだって今でも、そんな古い銃を使ってんだい?200年以上昔の骨董品だよ?」
 彼女は答える。
「私はでかい銃が好きなんだ。いつの時代も変わらないさ…電磁銃だか光学兵器だか知らないけど、撃たれて身体に穴が空けば死ぬ。それだけだよ」
 少女はシリンダーに6発の弾を込めた。
「それに…この銃は特別なんだ」
「特別ねぇ…」
 老婆は、懐から一丁のオートマチック拳銃を取り出し、シューティングレンジのターゲットに向けて引き金を引いた。
 高い破裂音と共にターゲットが四散する。
「今のは?」
「近接信管式爆裂弾。そんでこれが高速徹甲弾」
 シューティングターゲット横に置かれたベトンの塊が砕ける。
「口径5.56mm小口径高初速。大型サイボーグでも3・4発撃ち込めばひっくり返るよ。スライドはクローム削りだしの一品物でコンペイセイター付き。フルオートも可能。今なら格安でご奉仕するがねぇ…」
 少女は老婆を睨み付けた。
「なんだかんだ言って、あんたは商いがしたいだけだろ? あたしは“これ”だけで十分だよ!」
 ガンホルダーに銃をしまい、スリングベストを肩から掛ける。
「礼は言うよ。けど、これだけは口を出さないで欲しいんだ」
「ユリア」
「あん?」
「一つ忠告しとくよ。でかいチャカ振り回すだけじゃ、運は回らないよ。覚えておくんだねぇ」
 彼女は答えて言った。
「運なんて信じちゃいないよ。最後まで頼りになるのは自分とコイツだけさ」
 試射場から出ていくユリアを見送り、老婆が吐き捨てるように呟く。
「まったく。誰に似たんだかねぇ…あの口利きは…」
 老婆はそう言って、もう一度ため息をついた。




************




 拝啓、お母様。
 ご存知かも知れませんが、僕はサンヘドリンに入る事に決めました。
 もちろん最初は、御祖父様も義姉様もみんな反対しましたが、最後は許してくれました。
 ミラーズ大佐は、優しい人です。
 大佐は僕に推薦状を書いてくれたけど、一体誰に見せればいいのか分かりません。
 御祖父様は僕に、「男なら迷うな」と言いましたが、僕は早速迷ってます。
 正直迷子な訳で…
 案外みんな冷たいです…


 彼は不安そうな表情で溜息をついた。
 右も左もわからない状態で、サンヘドリン本部のターミナルフロアで一人、自分だけ。
 春雪ともはぐれてしまった。
 先程から姿も見えない。
「どこ行っちゃったんだろ…春雪…早く大佐の所に行かなきゃ…」
 ロビーのベンチに座り、彼はもう一度大きなため息をついてから、再び筆を進めた。

 情けないです…
 彼女が居なきゃ、何も出来ません…
 もちろん春雪には感謝してるし、彼女の事は大好きだけど、女の子に頼りっぱなしなのは如何な物かと思っ…

 突然、彼の膝の上に、大きなボストンバッグが置かれた。
 下敷きになるペンと手帳。
 彼は心の中で呟く。
「(…これは一体どういう事でしょうか…?)」
 一刃は怪訝な表情で、ゆっくり顔を上げた。




************




 デスクの上に散らばった書類を日付順にまとめあげ、束ねる。
 それを何度も繰り返し、出来上がったいくつものファイルを、彼は机の隅に順序よく並べていく。
 最後に、カエルの首ふり人形も置けば、出来上がり。
 あっという間に、仕事場の完成だ。
「ふう…」
 レイズが大きく息をつく。
 軍人と言っても、戦闘と訓練の時以外はサラリーマンみたいな物で、報告書と武器弾薬の出納帳の整理が中心。
 デスクは必須だ。
「これで全部だっけ?」
 彼が、側でチェックするサラに問う。
 彼女は答える。
「あとは日勤記録の整理だけですね」
「よし」
 この時代でも、個人レベルの書類は未だに“紙”で、レイズはその整理に追われている。
 ただ、このデスクは彼の部屋にある物ではない。
 グラムが、シェーファーの為に用意した部隊室だ。
「ごめんよ、サラ…休日なのに手伝わせちゃって…終わったらケーキ食べに行こうね!」
 サラが嬉しそうに微笑む。
「朝からよくケーキなど食べられるな…」
 後ろからグラムの声が聞こえた。
「あ、おはようございます!」
 レイズがグラムに敬礼する。
「整理はおわったか?」
「もう少しで終わります」
「そうか」
「あの、大佐…?」
「なんだ?」
「なんで今になってから部隊室を?」
「隊員も増えてきたからな。隊の統率を保つ為には毎日顔を合わせたほうがいい。それに今日は新しい仲間が増えるしな…」
 レイズは、グラムの顔が少し嬉しそうに見えた。
「そう言えば、エステルさんは…?」
「彼らを迎えに行った」
「彼らと言うと…?」
 レイズの言葉半ば、エステルが部隊室に入ってくる。
「遅くなりました。大佐」
「ご苦労。それで、彼らは…?」
 部屋に入ってきたのは、エステル一人だけ。
 不思議に思うグラムに、エステルが困った表情で答えた。
「あれをご覧いただければ…」
 彼女の指差す先。
 外の廊下には、顔面蒼白で壁に寄り掛かる少女が一人。
 彼女は、焦点の合わない眼差しで空気を見つめながら、ぶつぶつと小さな声で呟いている。
「若…様…何処に…行ったでございますですか? 若様…若様…」
 怪訝な表情のグラム。
「なんだ?あれは…?」
 エステルは眉間を押さえながら、グラムに答えた。
「どうも、彼とはぐれてしまった様で…」
 サラが、エステルに問う。
「お姉さま、あの子…誰ですか?」
「そうね。紹介がまだだったわね…」
 エステルは疲れた表情を振り払い、サラに優しい顔で答えた。
「あの子は“春雪”。私達の新しい姉妹よ」
「あの…エステルさん?」
 レイズが廊下を指差す。
「倒れてますよ? あの子…」
「え…?」
 春雪が、廊下で仰向けに倒れている。
「春雪!」
 珍しく慌てるエステル。
 彼女は急いで春雪を抱き抱える。
 眉間を押さえるグラム。
 レイズはサラに尋ねた。
「君もそうだったけど、イクサミコも倒れるんだね…」
 サラは彼に答えた。
「あれはいわゆる…フリーズですね」
「フリーズかぁ」


 …フリーズ!?




************





「あのう…すみませんか…?」
 彼は恐る恐る、自分の斜め前方にいる女に声を発する。
 無言。
 無視される。
 思わず不機嫌な表情になる一刃。
 黒いシャツに、どこのかは解らないが軍閥のコートを着て、黒い髪を伸ばし、鋭い目付きで眉間にうっすらとシワを寄せた、細身な少女。
 彼はもう一度声を上げる。