ヒカリ
短く、けれどはっきりと紡がれた内容に、シュリは目を瞠る。咄嗟に言葉を探せないでいる間に、リヒトは続けて言う。
「きっと、それが良いのだと思います」
「私も――」
確かに、村の人間はリヒトを追い出したがっていた。それを思って決めたことなのだろうか。シュリにはリヒトの真意が掴めずにいたが、言葉は知らぬ間に飛び出していた。
「私も行くわ」
「ダメですよ、ご両親が心配されます」
微笑むリヒトに、シュリは首を振って否定する。
初めて、リヒトの笑顔を見た。これを最後にはしたくなかった。
「関係ないわよ、そんなものっ。あなたを1人、行かせはしないわ。あなたがいなくなって喜んでいる村になんて、いたくないもの」
「……」
「我侭なのはわかってるわ。でも、あなたを1人でなんて、行かせたくない」
訴えかけてくる蒼い瞳に、リヒトは困ったような顔をする。困らせていることがわかっても、シュリは引き下がりはしなかった。
やがて、リヒトは諦めたように息を吐いた。その様子に、力の入っていた体から、ふ、と力が抜ける。
「わかりました。けれど、ご両親としっかり話をなさってください」
「――何が何でも、頷かせるわ。私の思うように生きるために」
強い言葉だった。本当に、信じたくなるような言葉だ。
2人は見詰め合って、そして、どちらともなく笑い出した。
これほどに、この少女が心強く思えるようになるとは、リヒトは思ってもみなかったことだ。
母が、自分のために村人から白い目で見られていたことが申し訳なくてしかたがなかった。その負い目から、なかなか母にも甘えることができなかった。心を開くことができなかったのに。
シュリは、リヒトが母親にもできなかったことをさせたのだ。
リヒトは、とても新鮮な面持ちでシュリを見た。
己を勇気付けてくれた少女。
暗い闇の淵から掬い上げてくれたこの少女の笑顔を、もう曇らせたくない、そう思った。