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文殊(もんじゅ)
文殊(もんじゅ)
novelistID. 635
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ウィンターマンとアースウーマン

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スーパーヒーローとは、なんぞや。
それは時に、勇気ある気高い行動でか弱きものを救う、心優しき存在であり。
またある時は派手なパフォーマンスと能力でもって、平和を保とうとするものであり。
普段の生活は情けないものであったり、ごく一般の人間として生きていたりする。

そういう者が、スーパーヒーローとして大きく認められているのである。しかし、ただそんなものばかりがヒーローであるなんて思われては困る、というか。なんとはなしに「こっちだって頑張ってるって!」と言いたくなるのであった。
『日本人はヒーローになれないか?
 そんなことはない!
 君たちの無限の可能性を広げるため
 また未来を拓くために!』
そんなキャッチコピーの書かれた紙をぼんやりと見ながら、氷室司はため息をついた。名付けられ、空を飛び、派手なパフォーマンスをすれば確かにそれはヒーローとして認められる可能性が高いだろう。しかし、こうして普段の生活では誰ひとりその正体を明らかにせずにいる。少人数制の授業、妙な試験と幾度となく繰り返された面接。それを経て、今この高校で何を学んでいるのか、と聞かれれば答えはひとつである。
いかにして自らをヒーローにするか。
能力さえあれば、性別はもちろん多少の事情も気にせずに入学が可能。教室内を見渡せば、それは明らかである。男から女からどちらともつかないのから、年齢も上から下から同い年から不詳から。金髪から黒髪から、碧眼からなにからさまざまとしか、言いようがない。
ちなみに今が何の授業の最中かと言うと、タッグを組んでの対抗戦の前準備の時間である。組む相手はくじ引きによって自動的に決められる。相手がどんなに自分と相性の悪い炎を扱うヒーロー志望生だろうと、組まなければならないのである。
しかし、今回氷室は相手に申し訳ない気持ちでたくさんであった。
「……立花」
立花ちはな。
彼女は、さまざまな人間がいるこのクラスの中で氷室と唯一同い年の女子である。力がどんなものか詳しいことはしらないが、おそらく「植物」だとか「花」だとかそこらあたりに関係があるのだろう。この学校ではそういった名前や苗字から力を推測することは比較的たやすい。
アメリカだったらジョンだとかメアリーだとかなので、推測もなにもないだろう。しかし、あっちはそんなことをしなくったって良い環境なのだから(だって普通に力を一般人の前で使っている)力を使うところを見ればよいだけである。
ともかく、立花の力を推測した結果非常に申し訳ない気持ちにしかなれないのである。氷室の力は、説明をそうせずともわかるだろう。
意識すれば自らすらも凍らせることが可能な、冷気をまとった男。そういえば随分格好もつくだろうが、冬場は冷え性が辛いだけの寒がり人間である。そんなのと植物や花なんて、合わせてはいけない。
凍らせてしまう、命を奪ってしまう。
氷室は小学校のヒマワリ栽培がだから怖かったし、中学のフィールドワークも嫌でしかたがなかった。少しでも気を抜けば、植物なぞ一瞬で凍ってしまうのである。
「氷室くん、か。今回はツイてるかも」
「……冗談だろ」
何度も説明する気はない。しかし、一言だけ言おう。
相性が悪いのである。氷と植物は!
どんなに相性を良くしようと思ったところで、無理な話なのである。
「前回、火野坂とだったから」
どうやら、立花はとことん相方にめぐまれてないらしい。燃やされるのも、辛いものがあるだろう。
形すら残されない。
そういえば、前回のタッグトーナメントで火野坂はひどく困った顔をしていた。おそらく二歳年上の立花の能力をかき消して良いものか、迷ったのであろう。しかし、ひとたび対抗戦が始まると隣の部屋にいた氷室を含めた全員が、ひどく汗をかいていた。ガラスも壁も特殊な素材でできているのだから、熱いなんてそんな筈はないのに。それだけ秘めた力が強いのか、と思うとなんだか情けなく思いたくもなる。
氷室はあくまでも、普通なのである。
それこそ、年齢なんか関係なく、火野坂のようなおそろしいほど高い能力を持った者に敵うようなものではない。そう考えて、ふと思う。氷室も立花も、火野坂のみならず炎を使うような相手とぶつかれば、終わりである。

「とりあえず。お互いの力について、よく知り合うのが必要よね?」
立花に声をかけられて、頷く。
「3階なら、空いてると思うぞ」
わかった、と言って立花は颯爽と空き教室へ向かおうと立ち上がった。
氷室の前を歩く立花の髪は女子がよく髪につけるシュシュ、だとかいうものらしかった。白地にオレンジ、赤い花。薄くて鮮やかな緑が派手さを少し押さえて、立花らしいと思わせる。
それに、蝶がとまった。どこから入りこんだ、と周囲を見渡すと窓が開いている。
「……立花、蝶が」
そこまで言って、息をのむ。
白い肌から、生えてはいけないというか生えているところを見たことがないものが生えている。濃い緑色の茎や青々とした葉をつけている、鮮やかな紫色の花が咲いている。その花がなんという名前なのか、氷室は知らない。だけれどもそれに引き寄せられるように、氷室の視線。それとシュシュへととまっていた蝶が、ふわふわとそれにとまった。
「……ダメ、ダメよ。ちびっこに見つかったらあなたカゴで一生を過ごすことになるわ」
そう歌うように口にしながら、窓の方へと歩いていく。開け放った窓からむせかえるほどの香りがただよってきて、思わず深く息を吸い込む。庭はよく手入れされているだけあって、色鮮やかな花が咲き乱れていた。そこに向かって立花は数秒蝶になにかしら言い聞かせて、首元に咲く花をぶちり、と音がするくらいの勢いで引き抜いた。
思わず顔をしかめた。
それはグロテスク、というのではなく立花がそんなことをするとは、という思いの方が強かったのかもしれない。氷室の中で、立花ちはなという女はおそらく花を愛でるものという認識がなされていたに違いない。
勝手な思い込みである。
たった今、それがおそろしいくらいの現実によって証明された。

「そういう、力なんだな」
飛び立った蝶を見ている立花に、そっと呟くくらいの声で氷室が口にする。そうね、と少し寂しげに微笑まれて、もぎ取った花のことを、と思った。しかしそれはすぐさま、否定されることになる。
「香りも蜜も存在しない、生きていない花を咲かせる力よ」
一瞬、何を言っているのかと聞き返そうかと思うほどにそれはあっさりと口にされた。
香りも、蜜も存在しない。
そんなのは、花と言えるのか、とすら疑問が浮かんだが世の中には造花というものが存在するのである。
だけれども、少し待てよと言いたくなる。百円ショップなどで、束になって売られているような造花よりずっと。綺麗だったではないか、と言ってやりたかった。立花の首から咲く紫の花は、見たこともない鮮やかさで香りをかぎたいくらいだったではないか。
「……どうして、生きてない花なんだ」
聞くことがタブーだろうか、と思いながらも興味は捨てきれない。教えたくない、知らない、と言われればそれでも構わなかった。
「私が生きた花をこの身に生やすほど、私はそれらを殺すことも覚悟しなきゃならない」