アイ
2
天地が我を創り賜うたならば、此の身滅びさするも世界。
息吹音色満ち足りた此処には、我は蛇足でしかあらぬ存在。
何故此の身創り賜うた?
此の身触れれば病魔に喰われ。
此の身駆ければ大地を腐らす。
此の声聴けば正気を奪ひ。
此の身見止めれば其れを殺す。
此の身…
生きるに何の楽しさが有ると言ふ。
生きるに何の希望が有ると言ふ。
生きるには苦だけが付きまとうて、弱き我を病ませうる。
さすれど死は我を迎えず。
生き存え、此の身が故、幾つのものを滅ぼしたろう。
我が慕うものは其の身滅ぼし。
我が嫌うものが増えゆく。
天地の愛で子。
世界に創られし我が身。
歪な我が愛し子ならば、この子らは忌み子。
其のような事が有って良いものだろうか。
もし創造主が此の声を聴くのなら、我を海に変えてはくれぬか。
愛するが故に創られた、然れど『愛』は其の身には無い。
忌み子でも我は慈しめる。忌み子など元から無いのだから。
忌み子、言ふなれば其れは我を言ふ。
海は青い。
闇と光を孕んだ其の青は、我を創りし者らの心。
創造主の作り賜うたものの中に一つだけ。
その存在の証に一つだけ。
海の青に、自ら飛び込んで色を付けた。
青く暗く。
生命育まれ弄られる事の無い領域。
消えゆく我が身、意識の中で、愛しい忌み子らの名を呼んだ。
愛し、愛し、此の身朽ちれど彼の子の為ぞ。
鳴々…愛し彼の子らよ。
海は空に上がり地に落ちてまた海へと巡る。
我の心、此の身を海へとけ込ませ。
慕う者らを慈しみ、見守れるように……と。
我が身まぎれて此の変わり果てた大地に身を落とす。
我の色、我の色、愛し子らを守り続けませう。
愛し子らは我を忘るだろうども。
其れでも。
愛し子ら、生き抜ける道があるならば。
故に、後の人は其の色を『藍』と呼ぶ。