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アイ

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 天地が我を創り賜うたならば、此の身滅びさするも世界。
 息吹音色満ち足りた此処には、我は蛇足でしかあらぬ存在。

 何故此の身創り賜うた?
 
 此の身触れれば病魔に喰われ。
 此の身駆ければ大地を腐らす。
 此の声聴けば正気を奪ひ。
 此の身見止めれば其れを殺す。   

 此の身…

 生きるに何の楽しさが有ると言ふ。
 生きるに何の希望が有ると言ふ。
 
 生きるには苦だけが付きまとうて、弱き我を病ませうる。


 さすれど死は我を迎えず。
 生き存え、此の身が故、幾つのものを滅ぼしたろう。
 我が慕うものは其の身滅ぼし。 
 我が嫌うものが増えゆく。

 天地の愛で子。
 世界に創られし我が身。 
 
 歪な我が愛し子ならば、この子らは忌み子。

 其のような事が有って良いものだろうか。


 もし創造主が此の声を聴くのなら、我を海に変えてはくれぬか。

 愛するが故に創られた、然れど『愛』は其の身には無い。
 忌み子でも我は慈しめる。忌み子など元から無いのだから。


 忌み子、言ふなれば其れは我を言ふ。 
 


 海は青い。
 闇と光を孕んだ其の青は、我を創りし者らの心。
 
 創造主の作り賜うたものの中に一つだけ。
 その存在の証に一つだけ。

 海の青に、自ら飛び込んで色を付けた。
 青く暗く。
 生命育まれ弄られる事の無い領域。 

 消えゆく我が身、意識の中で、愛しい忌み子らの名を呼んだ。
 

 愛し、愛し、此の身朽ちれど彼の子の為ぞ。
 鳴々…愛し彼の子らよ。
 

 海は空に上がり地に落ちてまた海へと巡る。
 我の心、此の身を海へとけ込ませ。
 
 慕う者らを慈しみ、見守れるように……と。
 我が身まぎれて此の変わり果てた大地に身を落とす。
 
 我の色、我の色、愛し子らを守り続けませう。 
 愛し子らは我を忘るだろうども。
 
 其れでも。
 愛し子ら、生き抜ける道があるならば。
 




 故に、後の人は其の色を『藍』と呼ぶ。
作品名:アイ 作家名:夜鳥