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<章=1>

 空が有った。

 海が有った。

 草が有った。

 生まれて間もない小さな生命が生きていた。


 世界は『現在』を刻んでいた。
 不穏の無い、平和な時が流れていた。

 黒い闇が大地を飲み込み渦巻いていた。
 真っ白な光が空から其れを照らしていた。

 大地の漆黒、天上の純白。

 それだけでも世界は美しかった。
 けれど神は更に美しいものを求めた。

 そして生まれたのが‘人間’


 それらは、神の欲求を満たすための玩具。












 黒と白。

 相反する二つの色。
 人の手によって作り出せる色のうちの、其の二色は、人が生まれる其のずっと前から。
 いつの間にか此の世界に有った。

 人は其の呼び名を知らない。
 人間には未だ、色を与えられていなかった。


 無知で無垢、かつ純真で純潔。其れが故純粋なまでに残酷。

 傑作の存在、種類名は‘人’。
 生まれたばかりの‘人間’に、創造主は名を授けた。

 『アダム』と『イヴ』

 そして二色に色付けた其の世界に、新たなる『色』を加えていった。
 思いついた創造物を其の世界に住まわす度、色は増えてゆく。 

 天地が白と黒だけでなくなった。
 創造主の思いつきで、白と黒は居場所を無くし始めていた。

 白の領域の天空は青に赤に。
 黒の領域の大地は黄に緑に。
 
 『色とりどり』の世界。
 

 奢れる創造主の侵蝕は、二色の領域を容易に越えた。








 色彩が豊かになり、色が溢れ満ちてくる。

 そんな時。
 白と黒は、残る力を振り絞り動いた。

 世界が消えてしまう前に。
 自らを守る為に。



 天地半ばの空間で、闇と光がぶつかる。

 一瞬の接触。
 そして一時の融合。

 絡まり合うようにして解けた其れは、うねり、混ざり、濁り色に姿を変えながら紅く発光し、勢い良く弾け飛んだ。
 爆発ではなかった。
 それは優しい光の包容だった。

 闇を含んだ白き光が、何万もの細い糸になり、世界全体を覆い尽くす。
 そしてそれらは数瞬の内に消え去り、また色彩豊かな創られた世界へ変わる。


 青に変わった空。
 白はもう浮かぶ雲でしかいない。

 光の弾けた空から、灰色の塊が落ちてくる。
 
 
 白と黒の生み出した子。
 創造主への最期の反抗。

 其れが眼を開いた時から。
 愚かな神の創りし美園は、荒野へと変わり始めた。

作品名:アイ 作家名:夜鳥