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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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インビンシブル<Invincible.#1-1(1)>

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「お父さんたち、あいかわらずだなぁ」
ナビシートに座る少年兵が、そう言葉を漏らした。
少年の名は、レオ・キスキンス。
ラック・キスキンスの息子で、ギアの孫にあたる。
今年で満15歳。

「ふん、ふざけすぎじゃわい全く。お前はあぁいう
パイロットにはなっちゃいかんぞ」
ギアは、憤慨した表情を浮かべ、鼻息を荒くして言った。
「…じいちゃん。僕はもうパイロットはさ・・・」
レオの物言いに、ギアは”しまった”といった顔をした。
「うははは。そう、そうじゃったのう。すまん、すまん」
まったく…才能はあるのにもったいない。
ギアは呟くように、そう後に付け加えた。

 レオは、ロズウェル士官学校、AAパイロット専攻第一学科を
優秀な成績で卒業し、次代を担うエースとなるはずの才媛だった。
訓練生時代のとある事故が原因でトラウマを抱えてしまい、
それ以来、操縦に支障をきたすようになってしまった。
 なんとか、適性ラインすれすれで通ったがけっきょく部隊配属後に
受けた最終適正検査にはパスできなかった。
その一年後。
技術士官を志して勉強に励み、適正を認められたレオ少年は
今は整備兵として軍務に従事していた。

「アルヴェードっていうんだよね、例の新型。
見た所、中近距離の戦闘に優れた機体のようだけど」
先日、セイボリック重工の設計室から送られてきたメールの
添付ファイルには、新型AR”アルヴェード”の詳細が記されていた。
レオは掌に持った携帯端末で機体データを閲覧していた。

 先発機であるライオン・ハートを基に造られた、
リィオンシリーズの新鋭機。
ST-WR61 Albed Lion(アルヴェード・リィオン)。
新しくラックに宛がわれる予定のARである。
「まぁの。近接戦闘に特化している部分はライオン・ハートの特性そのままに、
中近距離にも対応できる武装が組み込まれておる万能機じゃ」
「ライオン・ハートはARらしく近接戦闘に特化してた感じで、
中距離射撃戦は二の次って感じだったけど。アルヴェードは射撃戦にも
対応できるよう、設計されてるんだねー」
「そうじゃな。まぁ、そんな機体に乗ることになったら今よりも余計に
悪ノリに磨きがかかりそうじゃがの、お前の親父は」
「ははは、そうだね。父さん、ただでさえ戦闘中は口が悪いのに、
調子づいて余計に酷くなるのは目に見えてるよ」

 レオの父、ラック・キスキンスは普段は紳士的で温厚な人物なのだが、
AAに乗ると突然人がかわる。
そうなったラックは敵対する相手に対して、実に口さがなく節操がなくなる。
戦闘中、敵に対して罵詈雑言、悪言辛苦、誹謗中傷を浴びせたりなど、
なんでもござれだ。

『お前の格闘センスは評価にも値しない、
オヤジの○○にいた所からやり直したほうがいいんじゃないのか?』だとか。
『なんだそのライドは見るに耐えないぜ。
犬のサーフィンのほうがよほど芸術的だな』だとか。
『お前のママは○○まくりの○○だ。○○○○の残りかすで
生まれてきたのが貴様だ。どうりで低脳なワケだぜ。HAHAHAー』だとか。

 ラックの非道極まる口の悪さと、神懸かった操縦手腕は今も尚、
現在進行形で敵味方問わず、AAパイロットの
コミュニティの間で語り草になっている。
 ネット上では、ラックのファンとアンチの間で不毛な
論争が繰り広げられており、話題にはことかかない。
 AAの操縦手腕だけではなく、ラックは口の悪さにおいても
エース級だったというわけだ。
きっと、今このときにもラックの”口撃”の被害にあっている
パイロットがいるはずだろう。

「さ、レオ。見えてきたぞい。」
コックピットのガラス越しに、ウォルターナー諸島の情景が目に入ってきた。
島の中腹部に、工業施設らしき白い建造物群が見える。
島のはずれに、くっきりと区分けされた広大な二等辺三角形の敷地に
大小様々な施設と、洋上に向かって一本の長い滑走路が敷かれている。
それがセイボリック重工の工廠であった。

「んぁ?なんじゃいありゃぁ」
機体のフロントガラス越しに見た島の光景に、ギアは違和感を感じた。
場の空気というか恒常性というか、そういったものの”ズレ”。
長年、軍務に携わっている人間にはそれらをかぎ分ける嗅覚と
感性が自然と身につく。
一括りに言えば職人が持つ直感のそれ。
その直感が、ただごとではないと訴えていた。

 よく目を凝らしてみてみると、眼下に映る工廠では散発的に爆発が
起き、建造物からは火の手が上がり、煙が立ち昇っていた。
 次に、数十機のARが空を駆け抜け、互いに交戦している姿が目に入った。
その内の数機はよく見知った機体。セイボリック重工の
ベストセラー機、ガル・メイス。
ヘルメットとアサルトスーツを装備した兵士を連想させる意匠のAR。
ノーチラス隊をはじめ、エアリアル皇国で最も多く配備数されている機体だ。

 そのガル・メイスと相対している様子の黒いAR。
そのARは顔にあたる部分が胴に埋まっており、ずんぐりとした上半身をしている。
インパルスのどの企業メーカーにも該当しないデザインの機体。
 その外見はまるで、神話に出てくるトロールのような姿であった。
長い手をぶらりと下に垂れ流したその姿は”テナガザル”を連想させる。
それこそが、島に異変と違和感をもたらした正体であった。

 その群像の中にあって、一機だけ目立つ色立ちのARがいた。
白を基調とした青と黄色のラインが入ったトリコロールカラーのAR。
純白の機体色が、恒星アークトゥルスの光を照らし返し
その身を白く輝かせている。
その白亜のARは、ガル・メイスとともに”テナガザル”達と
相対している様子だった。
 
 どこかで見た覚えがあるシルエット。
ライオン・ハートやリィオンに似ているその姿が、一つの答えを示していた。
「あの白いAR、もしかしてアルヴェードなんじゃないの!?」
「そうか?シルエットは似ているようじゃが、こう遠くては
よく…わからんのう」
目を細めて遠方を伺うギア。
近年視力が弱くなってきたのか、肉眼では相違がつかないらしい。
「なにそれ、新手のボケ?じいちゃん、よく見なって。わかるだろー!」
「この、ボケとはなんじゃ。見えないものは見えないんじゃい」
「あの白いAR。黒いARと戦ってる様子を見ると、
敵方の手には落ちてないようだけど…」
 
 その次の瞬間であった。
白いARが被弾した。
姿勢を崩した白いARは、コントロールを失い地上へと墜ちていった。

「落ちた!」
白亜の機体は、島はずれの森林へとその躯体を沈めていった。
直後に、腹の底に響くような低重音が大気に響いた。
「あれがアルヴェートかどうか確認をする必要が出てきたな。
レオ、島に降りる前にノーチラスに伝聞を打っとけ、
状況報告と応援要請じゃ」
「了解」
ギアは輸送機の機首を、島のはずれの森林地帯へと向けた。
VTOL<垂直離着式>のこの輸送機ならば、機体を降ろせる
スペースさえあれば着陸できるはずだ。

 しかし一体何故、セイボリック重工の工廠が襲われているのだろうか。
あの白いARは本当にアルヴェードなのか。