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温泉に行こう!

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四、


夕刻が近づいて、少し肌寒くなってきている。
寺島は部屋から縁側の向こうにある庭に眼をやった。
今いるのは旅館の一室である。
数日まえからここで滞在している。
それまでは請われるままに町の有力者たちの家を訪ねて泊まっていたのだが、そのうち、やはり本拠地といえるところがほしくなって、この旅館をそれにすることにした。
旅館で部屋を借りているわけだが、宿泊費だけでなく食費なども無料だ。
こちらが払おうとしても受け取ってもらえない。
この旅館に来るまえ、久坂がどの旅館がいいかを町の有力者に相談すると、あっというまにその噂が町に広まって、是非うちにとたくさんの旅館の関係者が手を挙げて競い合ったのだった。
あのときの騒動を思い出して、寺島は顔を陰らせる。
人気者すぎるんだよな……。
そう思う。
もっとも、久坂が人目をひくのも過度なぐらいに人気があるのも今に始まったことではない。
だが。
これほどまでとは……。
その人気者は、今、散歩に出ている。
しかし、旅館を出てから時間がかなり過ぎている。
帰ってくるのが遅い。
もしかして、なにかあったのだろうか。
心配する。
寺島は畳から立ちあがろうとした。
そのとき。
部屋の外から声が聞こえてきた。
遠くにいるのか小さくしか聞こえてこないので内容はわからないが、その声は久坂と旅館の仲居のものであるのがわかった。
寺島は畳に腰を落ち着ける。
しばらくして。
部屋に、久坂が入ってきた。
そこに光が集まっているような存在感だ。
久坂は寺島を見て、にっこり笑う。
「ちょっと散歩するつもりだったんだけど、あちらこちらで引き留められてしまったよ」
だから、もどりが遅くなったらしい。
言われてみれば、ありがちなことで、簡単に想像できた。
久坂は寺島の近くに腰をおろした。
「そういえば、妙っていうのかな、ちょっとびっくりすることがあったよ」
作品名:温泉に行こう! 作家名:hujio