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命の時計

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ある病院で赤ん坊が生まれた。
「おめでとうございます。 110歳まで生きられる男の子です」
助産婦が赤ん坊を母親に渡した。
よく見ると赤ん坊の胸には時計が埋まっていた。

110 年27日22時間34分25秒……24秒……23秒……

そうやって表示されていた。
しかし母親はそんなものは見なかったかのように自分の子供を嬉しそうに抱いていた。



その病院の別の部屋では老衰で今にも亡くなりそうな老人がいた。
老人はベッドに寝かされていて、胸の時計は静かに時を刻んでいた。

0年0日0時間0分4秒……3秒……2秒……

「ご臨終です。」
ベッドの傍らにいた医者は脈を確認するわけでもなく、ただ老人の胸の時計を見て言った。



その病院のある街の別の場所では少女が横断歩道を渡っていた。
歩行者信号は青だ。
その少女の胸にある時計はゆっくりと時を刻んでいた。

85 年267日8時間40分32秒……31秒……30秒……

瞬間、少女ははねられた。
信号無視をしたトラックにはねられた。
トラックの運転手や周囲の歩行者が少女の無事を確認しに近寄った。
しかし少女の胸の時計は、はねられた瞬間に彼女に残された寿命を示したまま止まっていた。


ある観光地にあるバンジージャンプ台に一人の若者がたっていた。彼の胸の時計は規則正しく時を刻んでいた。

70 年322日6時間20分59秒……58秒……57秒……

彼はジャンプした。彼は絶叫しながらもバンジーを楽しんだ。しかし、彼の胸の時計をよく見ると1時間ほど数字が減っていた。



宇宙空間。
誰も気がついていないが、青い地球をよく見る。
するとデジタルではなく、巨大で地表と同じ色をしたアナログ時計があった。

0時0分3秒……2秒……1秒……

この時計の短針は後何周する事ができるのだろう。
しかし地球の人々は、この時計の存在にすら気付かずに今日も生きていくのだろう。

作品名:命の時計 作家名:黒井 心