あかいくつ
「ひまわりは太陽になれない……か。いいのにね、無理にならなくたって」
早紀は足下の貝殻を拾うと、高く掲げて見つめながら、言葉を続けた。
「ひまわりはひまわりよ。でも、アメリカに行ったら青い目になっちゃったりして?」
いたずらっぽく笑いながら言ったそのことばに、ぼくは気づいた。
早紀はぼくなんかより、ちゃんとあやこさんのことを見ていたんだ。
「わたしね。なりたかったの。ほんとうは」
「何に?」
『友だちに』って、言葉をわざと抜かして言っているのがおかしくて、ぼくはいじわるして聞き返した。
「いいじゃん。なんでも。でも、彼女。自分を作っていたでしょ」
照れ笑いしながら、早紀はそこでことばをくぎり、深呼吸をした。
「ううん。作っていたっていうより、自分で自分にとまどっていたみたいなところがあったでしょ。だから、わたしじれったくて」
「おまえって、あんがい……」
いいやつだな……と言おうとしたとき、
「わたる。好きだったんでしょ?」
早紀はひやかすような目つきで、ぼくの顔をのぞき込んだ。
「な、なんだよ。そんなことあるわけないじゃん」
「きゃあ。赤くなってる。やっぱりね」
早紀ははやし立てながら、ぼくの周りを跳び回った。
「うるさーい!」
と、おいかけようとしたけど、ふと、立ち止まった。
ぼくはあやこさんのことを好きだったんだろうか?
よくわからない。
「なによ。急に考え込んで」
「うん……」
「へんなの」
早紀は肩をすくめた。
言葉がとぎれて、しばらくの間、二人とも黙って海を見ていた。そのうち、早紀が『赤い靴』を歌い出した。
もの悲しいメロディーは、静かなさざ波にすいこまれていく。
秋のエメラルド色の波間に、軽やかに踊るあやこさんの姿が、見えかくれしたような気がした。
そう、赤い靴をはいて――